現行水準の維持には、長く働く必要がある

そこで財政検証では、どうしたら現行の水準を維持できるか、についても言及している。

現在の年金制度は60歳まで働いて、65歳から受給だが、働く期間を長くし、年金は繰下げ受給する。繰下げ受給とは、年金の受給を遅らせることで、1カ月遅らせると0.7%、その後の支給額が増える。現行制度では最大5年間繰下げができ、最大で42%、年金を増やすことができる。また、ここで言う働く、というのは、働いて年金保険料を納める、ということを意味する。

現在55歳の人は65歳まで、現在35歳以下の人は66歳9月まで働き、そこから年金を受給する。また基礎年金(国民年金)の加入期間を45年にする(65歳まで保険料を払う)ようにすると、現在35歳以下の人は65歳10月までになる。

「より長く働かなければならないのか……」と悲観する声もあるが、実際はどうか。

現在でも60歳で定年を迎えた後も再雇用や雇用延長などで働く人は多く、約7割の人が65歳まで働いている。その間、年金保険料を払っている人は少なくない。さらに人生100年時代となればより長く働く必要があるということを認識している人は多い。

また多くの人は、そもそも年金の支給は65歳からである(年齢によっては65歳未満から一部支給あり)。

となれば、67歳程度まで働いて年金保険料を支払い、そこから年金を受け取る、というのは、それほど非現実的ではない、ともいえるのではないだろうか。

ちなみに、受給開始年齢は遅くなっても、長生きすることを前提にすると、受け取る期間(累計)は短くならない。平均余命から考えると、現在65歳の人の平均受給期間は約22年だが、現在20歳の人は25年と、約3年長くなる。20歳の人の受給開始を66歳9月にしても、受給期間は24年以上と、今の高齢者より長いのである。

自分の老後は自分で変えられる

少子高齢化や長寿化、経済成長の鈍化などは個人の力では抗いようがないし、年金財政を呪っても、批判しても始まらない(注視することは大切)。

ではどうすればいいだろうか。

しっかり認識しておきたいのは、「年金の受取額は自分で変えることができる」、ということだ。

具体的には、長く働くこと、そして無理のない範囲で受給を繰下げることである。

所得代替率はあくまで標準的なケースの場合であり、個々の年金額は、年金保険料をいくら、何年納めたかによって異なる。長く働く、たくさん稼ぐ(保険料を多く納める)ことで、将来の年金を増やすことができる。長く働く(しかも楽しく)には、それなりの準備をした方がいい。公的年金を補完するために、iDeCo(個人型確定拠出年金)で税メリットを受けながら年金づくりをすることも考えたい。

加入期間(保険料を納める期間)の延長や繰下げ受給できる期間の延長(現行では最長5年間)、またiDeCoの拠出額引き上げ、拠出期間の延長(現行では60歳まで)なども、今後、検討される。いずれも、自助努力の必要性が増すからであり、そうした時流をしっかりキャッチし、そこに乗るのが賢明といえる。

若い人ほど不利、という想いにとらわれがちだが、見方を変えれば、50代の人より、20代の人の方が、「個人の力で」、「自身の年金を増やす」余地は大きいのだ。

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井戸 美枝(いど・みえ)
ファイナンシャル・プランナー(CFP認定者)

関西大学卒業。社会保険労務士。国民年金基金連合会理事。『大図解 届け出だけでもらえるお金』(プレジデント社)、『一般論はもういいので、私の老後のお金「答え」をください 増補改訂版』(日経BP)、『残念な介護 楽になる介護』(日経プレミアシリーズ)、『私がお金で困らないためには今から何をすればいいですか?』(日本実業出版社)など著書多数。