展示交渉で見せた“マハ・マジック”とは

——「CONTACT―」展には絵やインスタレーションだけでなく漫画、作家の手書き原稿も含め、25人のクリエイターの作品が展示されます。具体的にはどのようなタスクを担当されたのでしょうか?

最初にこの展覧会の発起人として関わったので、アーティスト、アートの所有者、美術関係者に説明するプレゼンテーションをしました。「なぜ、この展覧会をやるのか」「これをやることによってどんなきっかけが生まれるのか」と説明し、賛同してくれた方も多かったのですが、了承してもらえないケースもありました。

従来の展覧会と違うのは、時間をかけてひとつのサブジェクトを深く掘り下げるというより、どんどん広げていったこと。ある箱があったらそれをパタンパタンと開いて展開し、展開した先に次の展開が見えてまた箱を開いていく。そんなイメージですね。そうするうちに初めは小さな箱だったのが、ものすごく大きな面になりました。この手法はキュレーションとしてはイレギュラーですが、小説家だからこそ成立したと思っています。

——20 CONTACTS―』の解説(林寿美さんによる)では、展示交渉をする原田さんのコミュニケーション術がすばらしいと絶賛され、“マハ・マジック”とまで書かれていますが、相手を説得するときにやるべきことはなんでしょうか?

ビジネスウーマンの方にも、自分のやりたいプロジェクトがあってどうしても交渉を成功させなきゃいけないというときがあるでしょうね。わかりやすい突破点があるビジネスと展覧会はイコールに語れないと思いますが、やはり人に会って話を聞くときは、どれだけ相手を尊敬しているか伝える、または、伝えなくても態度で示すというのが非常に重要だと思います。相手に勝負を挑むのではなく、とにかく敬愛の情を持つ。

私は雑誌の対談のホストを務めるときもそうしていますし、アーティストに会うときも、「あなたの作品によって、どれほど私の人生が豊かになったか」を伝えてきました。そういう気持ちってやはり相手に伝わると思うんです。ですから、プレゼンなどでも、その場を「あこがれの人に会いに行くんだ」という気持ちに置き換えてみると有効かもしれません。

——20 CONTACTS―』に登場するアーティストは、猪熊弦一郎、ルーシー・リー、アンリ・マティスなど20人。その大半の作品が「CONTACT―」展で展示されますね。

企画するだけでなく、私もひとりのクリエイターとして「CONTACT―」展に参加したいと思いましたけれど、展示の場でそんな星々のような方たちと自分が並ぶなんて、おこがましい。ただ、小説を書くことが私にできる唯一の参加手段だったので、「これはなんとしてでもやりぬかなければ」と心して40日間で書き上げました。

書いている間は本当に楽しい時間でした。「5人分書いた」「これで10人とコンタクトした」と数えていき、最後の3人ぐらいになると、書き終えたくないようなさびしい気持ちになりました。実は、展覧会でも小説の一部を配りますので、訪れた人が作品にコンタクトすることによって、この小説は完結する。皆さんに私のクリエーションの一部になっていただくというのがコンセプトなんです。