着席にしても回転率は下がらず

三番目に、俺のフレンチの回転率の高さは、メニューの作り方からもきています。高級フレンチのメニューはコース料理が基本です。着席してから順番に料理が出てくるので、デザートを食べ終わるまでには3時間ほどかかります。そのため、基本的に高級フレンチは、1日平均で1.2回転ともいわれています。一方、俺のフレンチでは、一品料理(アラカルト)主体の居酒屋スタイルとなっています。しかも、その日の推奨メニューがどんどん売れていきますので、1時間くらいでサッと帰る客が多いのです。

ただし、2015年ごろから、俺のフレンチ・イタリアンでも、ほとんどの店舗で「着席スタイル」に転換しています。お客から「立ち席だと落ち着かない」という要望を取り入れた結果です。着席でも高い回転率を実現するため、そのころから「2時間制」を導入しました。実際には、席の入れ替えがあるため「1時間45分制」です。飲み放題の居酒屋で見られる「時間貸しのシステム」となっているので、立ち食いスタイルのときと回転率はほとんど変わっていません。

スシローとの経営的な共通点

ここまでで説明してきたように、俺のフレンチ・イタリアンが低価格でも店が運営できているのは、高原価率・高回転率で客数が多いからです。じつは、回転寿司の「スシロー」も同じ戦略を採用しています。品質のよいネタを高原価率・低価格で提供しています。しかも、原価率50%以上、商品単価が一貫100円とわかりやすいのも特徴です。スシローの場合も、粗利は薄くなりますが、回転率を高めることで高収益を確保できています。

ただし、これらのチェーン店と俺のフレンチ・イタリアンでは決定的に異なる点があります。それは、店舗運営で「個店経営」を取り入れているということです。通常の飲食チェーン店のほとんどは、全店で材料を一括して仕入れています。「セントラルキッチン方式」と呼ばれるもので、食材は工場で途中まで加工して各店舗に配送します。

俺のフレンチは個店経営

それに対して、俺のフレンチ・イタリアンは、仕入れやメニューをシェフに一任しています。そのため、店ごとにメニューが異なったり、同じ店でもその日に仕入れた材料によってメニューが変わったりします。お客としては、週に1回通っても飽きがこないような機動的なメニューになっています。

しかし、個店経営には弱点があります。チェーン店は運営がシステム化されているので、キャリアが浅い人でも店長を務めることができます。しかし、個店経営は腕のよいプロでないと店長は務まりません。2019年4月現在、「俺のフレンチ」は8店舗、同系列の「俺のイタリアン」は7店舗、「俺のフレンチ/イタリアン」は2店舗、「俺のスパニッシュ」は1店舗、「俺のビストロ」は1店舗となっています。その他に、「俺のBakery」「俺のGrill」「俺の割烹」「俺のやきとり」「俺の焼肉」「おでん 俺のだし」「そば 俺のだし」「俺のうなぎ」などの姉妹店も展開中です。さらなる出店攻勢には、人材の確保が課題になります。

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小川 孔輔(おがわ・こうすけ)
法政大学経営大学院イノベーション・マネジメント研究科教授

東京大学経済学部卒。同大学院社会科学研究科(経済学専攻)博士課程中退。法政大学経営学部教授を経て現職。日本フローラルマーケティング協会会長、オーガニック・エコ農と食のネットワーク代表幹事。近著に『「値づけ」の思考法』など。