脳が最も美しいと判断する顔とBMIは?
少しでも自分を良く見せることができたら……。多くの人が望む事でしょう。特に女性の中には、職場仲間や女友達と写真を撮るときに半歩後ろに下がる人や、飲み会などの幹事になってメンバーを選ぶ時、自分よりスタイルや顔がよい人を選ばない人がいます。このようなちょっとしたトリックで、自分を周囲より美しく見せようとする人が身近なところにもいるのではないでしょうか。でも実のところ、それらトリックを利用してもその人の“魅力”は上がらないことが実証されています。
そもそもなぜ一歩下がったり、スタイルの良い人と並んだりすることを避けるのでしょう?
女性の身体評価の基準の一つに、body size(体型)があります。1327人の男性を対象に女性のbody sizeと美しさの関連性を研究したところ、男性が最も美しいと思う女性のBMI(body mass index)は、19~20であったと報告されています(それ以降は、BMIの数値の上昇にともなって、評価が下がる。欧米での研究結果)。また体型以外にも、人の美しさや魅力を判断する重要な要素として、文化を問わず、顔の左右対称性、母集団における平均的な顔であること、親からの投資状況を推測できる事項の多さがあると報告されています。対称性は「遺伝子の優良さ」、平均顔であることは「遺伝子の多様性」、そして親の投資状況は「生存の有利性」を反映するためだと解釈されています。
こういった異性による本能的な魅力度判断に対し、勝ち抜いていくための生存戦略の一つとして、他者との比較を巧みに利用しているのかもしれません。
“美しさ”の評価が上がっても、“魅力度”は変わらない
このような戦略において最も利用しやすいのが、錯視効果です。錯視は「目の錯覚」ですが、実際には、目ではなく脳の活動にその原因があるため、「脳の錯覚」でもあり、いわば脳がだまされている状態とも言えます。
例えば、図表1は「エビングハウス錯視」です。真ん中のオレンジ色の円は両方とも同じ大きさですが、大きな円に囲まれている左のほうは小さく、小さな円に囲まれている右のほうは大きく知覚されます。これが「自分よりスタイルの良い人と並びたくない」理由につながります。
では、自分が一番スタイルがよく見えるようなメンバーをそろえたり、一歩下がったりすることで、本当にその人の魅力度が上がるのでしょうか? これを調べた面白い実験があります。被験者を、その被験者より体重の多い人たちとならべた環境で、その人のスタイルの良さを評価してもらうと、その人が細い人と並んでいた時に評価されたときよりも、スタイルの良さについてずっと高い評価がえられました。ところが驚いたことに、周りの人との比較のなかで、その人の美しさの評価が上がっても、その人の魅力度はまったく変わらなかったのです。つまり、脳が下すその人の魅力度に、“他者との比較を利用しただまし効果”は全く効かなかったということです。