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計画も、結果も求めるコンサル社長

父親不在によって母親がおかしくなるケースがある一方、父親が介入しすぎてうまくいかないケースもある。私の経験では、コンサル系の会社を経営している父親に多いのが、かかったお金に対し、すぐに結果を求めるタイプだ。また、学力をどう伸ばしていくつもりなのか、計画を出すよう要求してくる。Bくんの父親もそうだった。

もちろん、私たちは入念にプランニングする。しかし、ビジネスとは違い、相手は小学生だ。そうそう計画通りにいくものではないことをBくんの父親はわかってくれなかった。

家庭教師といえば、子供部屋で授業を行うイメージを持たれるが、私たちはリビングやダイニングのテーブルを使う。教師は生徒の隣に座り、向かい側には親に座ってもらう。リビングやダイニングで行うのは、その家庭の様子が最も伝わる場所だからだ。また、親に同席してもらうのは、プロの教え方を学び、親自身に実践してもらいたいからだ。Bくんの父親にも、同席を求めた。

父親は、授業には関心があるものの、向かいには座らなかった。広いLDKの遠く離れたソファに座った。テーブルには小型カメラを設置し、モニターを通じて、私の授業を観察するという。どんな形であっても、授業を観てもらうことは大歓迎だが、録画されていると思うと、少々やりづらいものがあった。

父親の口癖は、はやくやれ! 全部終わらせろ!

Bくんの勉強量のわりに、成績が伸び悩んでいた。雑な字で書かれた回答用紙を見て、原因がすぐにわかった。聞いてみると、日ごろから、父親から「はやくやれ」「全部終わらせろ」と言われ続けていた。その結果、「アタフタ学習」になって、じっくり考え、丁寧に解答を書くことができなくなっていた。こういう子には、とにかく丁寧に解き、丁寧に書くことを何度も教え続ける必要がある。場合によっては、ひらがなを書く練習から始めることもある。

Bくんの場合も、Aくんと同様、親が変わらないかぎり、改善は望めないと判断した。私はモニターを見ている父親に伝わるように、その子の回答用紙を見ながらこう言った。

「あれ! 式は合っているのに、どうしてこの答えになったんだろうね。これは単純な計算ミスだよ。Bくんはちゃんと解き方がわかっているのに、残念なミスだなぁ! こういうミスをするのは、はやく解こうと思って、焦っている子なんだよ」

おおげさに言いながら、「本当は学力があるのに、それを潰しているのは、あなたなんですよ!」と、父親に向かって無言で訴えた。Bくんによると、その日を境に父親は「はやくしろ!」と言わなくなったそうだ。