――そんなに大変だったんですね。

【林】「いやいや、もう無理、あんな難しい偉人を書くのは無理!」ってお断りしたくらいです。でも、背伸びしなきゃ絶対成長しない。「もう絶対無理」と思う仕事をしなきゃだめだと思うんですよ。今の時代にこんなことを言うのは問題かもしれませんが、徹夜を何日しても取り組まないといけないことがあるとしたら、私にとって西郷隆盛ってそのくらいすごい大冒険でした。だからこそ、それを終えていま、すがすがしい気分だし、それは30代、40代で手を抜かないできたおかげですね。

――ベテラン作家の林さんでも、基礎づくりの時期や今でも乗り越えるべきハードルに向かわれることがあると聞くと、ホッとします。

【林】『西郷どん!』を書くとき、夫が「別に林真理子の原作なんか読まなくたって、司馬遼太郎を読めばいいじゃん」って言ったんですよ。確かにそう思う人はいっぱいいるでしょう。歴史観がないとか、つまらんとかいろいろ言われるかもしれないと本当はビクビクしているし、だからこそ書くのも怖かった。ここまでくると、もう肝を据えて待つしかないですけどね。

でも、この2年間、自分の楽しみよりも資料を読み込むために時間を費やし、鹿児島にも何度も行き、月に1度は勉強会を開いて学者さんから話を聞いて取り組んできました。歴史の事実からどれをピックアップしてストーリーを作るかが作家の裁量。歴史オタクではない私だからこそ、何が面白いかを突き詰められたと思っています。

――2018年は大政奉還から150年で、西郷さん同様、幕末期に活躍した人物に注目が集まっていますね。

【林】私は高知が好きで、坂本龍馬の魅力もすごく感じています。薩長同盟を結ぶ際にも10日間にらみ合っていた2つの藩に「あんたたちはいったい何やってるんだ!」と龍馬が涙ながらに怒るんですよね。龍馬の涙と説得が、歴史を動かした瞬間。一介の浪人なんですけれども、みんななぜか龍馬の言うことは聞く、すごく魅力のある人なんです。

▼息抜きは高知に旅行
(左)気分転換に高知を旅するという林さん。大政奉還明治維新150周年を記念した「志国高知 幕末維新博」のための講演会に高知を訪れていた林さんにオススメスポットを伺いました!
(右)坂本龍馬や西郷隆盛について、尾﨑正直高知県知事と対談。幕末の面白さについて語りました。