順調に仕事は増え、夜間のイベントや出張案件もこなせるように。だが17年、2度目のピンチが訪れた。

「8月に2人目が生まれ、産休後もしばらく仕事を休むつもりで役所に相談しに行ったところ、フリーランスの場合、法的に育児休暇を保証されていないため、休むと上の子を認可保育園に預けることができなくなる、と言われました」

しかたなく産休が明けると同時に、民間のベビーシッターと一時預かりの保育園に下の子を預けて仕事を再開することにした。

「しばらくは翻訳とスカイプを介しての会議通訳などを中心に回し、来年の4月以降、下の子も常時保育園に預けられることになったら外へ出て行く」つもりだ。

予期せぬリスクに直面はしたが、「商社を辞めて通訳を選んだことは後悔していない」と田中丸さんは言う。将来的な保証はなくとも、これまで仕事が途絶えたことはなく、商社を辞めた時点とほぼ同じ収入を確保できている。メルカリに勤務する岡本さんの場合、収入と労働時間のバランスを比較するとプラス・マイナスはあるが、相対的に仕事の満足度は上がった。担当業務の幅が広がり、新たな挑戦ができている。会社が副業を認めているため、個人的な弁護士活動も続けているという。

先の見えない時代、最後に自分自身を守ってくれるのは他者にはない経験だったり、実績だったりする。もしかすると、100%安定した人生など、どこにもないのかもしれない。「不安定なほうが人生は好転する」という千田さんの言葉が、現代を象徴している気がした。

編集=福田 彩 撮影=強田美央