2012年ごろに福島出身の矢内廣さん(ぴあ株式会社社長)からコラボレーションの話がきたときには震災からまだ1年しか経っておらず、被災の報道の印象が強く、世界における福島のイメージがあまり良くなかったため、やや時期尚早で。そのときはシルクで生地を作るといったできる範囲にとどまったものの、こうして再び福島の伝統産業に寄与できることに、今こそ時が来たのだと感慨深く思います。

「日本人が日本をデザインしようよ」

(上)江戸時代から張り子を作り続ける「高柴デコ屋敷観光協会」とのコラボレーションで生まれた、コシノジュンコさんデザインのおいらん。うしろは虎、だるま。(下)日本最大級のファッションの合同展示会「rooms 34」で発表された作品から。コシノジュンコさんは、漆や張り子、会津木綿、陶器など、福島県内で伝統工芸品をつくる11事業者とコラボレーションし、それぞれにデザインを考案。事業者たちの手により新しい工芸品が生まれた。今春発売予定。

福島とはもともと縁があり、漆のものづくりは今回も参加している「漆器工房 鈴武」さんとともに、約40年前からJUNKO KOSHINOで行っていて。2000年にはヨーロッパ最大級のインテリアデザインの見本市「メゾン・エ・オブジェ・パリ」に漆器を出品し、「Les Decouvertes maison&objet(バイヤーズ賞)」をいただきました。

うちの漆の商品は以前にアルマーニやダナ・キャランが買っていて、デザイナーに評判がいい。今回のコラボレーションも、生産量と流通と価格のバランスの採算が合うなら、海外での販売もぜひしたいですね。

福島でできることはたくさんあります。東北は西洋からの影響があまりなく、昔ながらの独特の文化やデザインが今も息づいているので、それは世界から見たら大きな魅力です。今回の企画は私にとって新たな入り口に出合った感覚ですので、これからも継続していきたいですね。

今回の作品を発表した展示会「rooms 34」の会場で、1990年代に西武百貨店の取締役を務めた水野誠一さんと偶然お会いしました。私が漆を続けていることに対して、「継続は力だな。ずっと続けているのはジュンコさんだけだよ」と。うれしいですね。そして「日本人が日本をデザインしようよ」というグラフィックデザイナーの田中一光さんの言葉を思い出しました。今回の福島とのコラボレーション企画はまさに、この言葉を体現していますよね。

ところで、私は業界という言葉が好きじゃないの。デザインには本来、国境も言葉も業界も、垣根は何もないでしょう? なのに「ファッションデザイナーはファッションしかやっちゃいけないの?」と。肩書きがじゃまなのね。それがなければもっと広くいろいろなことが自由にできるのにって。