副部長へ昇格してもずっと職人でいたい

そんななか、思い入れの深い製品を1つ挙げるとすれば、箸置きを開発した翌年、ようやく工房での日々に慣れてきた頃に採用されたリングホルダーだという。現在もスガハラのロングセラーとなっている製品の一つだ。

「三日月をイメージして何かを作りたい」

そう思っていつものように、休み時間中に作ったという。

「ガラスという素材は、柔らかい曲線に美しさがあると思います。ガラス特有のその曲線を生かして、『ガラスらしさ』を表現したいと思いました。リングホルダーという用途は、後から付いてきたような感じですね」

(左上から時計回りに)形や厚さが均等にできているか入念にチェック。/みんなで持ってきたお弁当を持ち寄ってランチ。/1400℃の炉からガラスのタネを取り出し形を整える。/月に1度のルツボの交換。集中し、全員で協力して行う。

吹き竿に少量のガラスを巻き、その上からもう一度、同じようにガラスを巻き付ける。次にそれをペンチで引っ張りながら細かな形を整えていく。

「宙吹きで作る製品は、巻き取ってから全く触らない箇所が多いんです。触らないガラスは表面が本当にきれい。私が宙吹きという製法が好きなのは、そんなふうにガラス本来の美しさを残しやすいからでもあります。ガラスのタネというのは熱くて、手では直接触れない。だからこそ、それをいかに自分の思い通りの形にするかに、大きな魅力を感じています」

現在、製造部門の副部長である彼女には、工房の各班長を取りまとめたり、経営にも関係するさまざまな会議に参加したりする役割がある。

「女性としていちばん長く勤めているので、後輩たちの働きやすい職場にしていく必要も常に感じています。男女の区別なく、良き先輩でありたいという思いがありますね。ただ、正直に言えば、私は淡々とものを作っていることに喜びを感じるタイプで……。キャリアや立場よりも、今のように職人として、現場で働き続けていきたい、という気持ちが本当は強いんです」

時に過酷なガラス製品の製造現場では、技術と体力の両方が求められる。だからこそ、と彼女は言う。

「技術を高めることには、終わりがありません。年齢とともに体力が低下していくなかで、いかにそれを技術で補えるかが今の私のテーマ。その意味でこの仕事は現状維持こそが大変なんです。特に私の担当する宙吹きは、厚さも寸法も自分の腕一つで全て決まる製法です。それを担う自分の技術を、今後も研ぎ澄ませていきたいです」

(上)仕事の疲れをいやしてくれる猫たち。4匹飼っている。自分でデザインした製品の中には、ネコのデザインを入れて作ったものも。(下)家庭菜園が好きで、さまざまな野菜を収穫できる。昨年は日よけもゴーヤカーテンではなく、キュウリカーテンにチャレンジ。

▼内藤さんの24時間に密着!

6:00~7:00 起床・朝食/出勤準備
7:00~7:30 出社
7:30~8:00 仕事準備
8:00~12:00 工房で制作
12:00~13:00 昼食
13:00~17:00 工房で制作
17:00~18:30 翌日の準備
18:30~19:00 帰宅
19:00~20:00 入浴
20:00~21:00 夕食
21:00~23:00 裁縫や読書/ネコとゆったり
23:00~6:00 就寝

 

よしざわさきこ=撮影