1400℃の窯から取り出したガラスが軟らかいうちに形を整える。ガラス職人約30人の連携プレーで1日数百個のグラスや皿を作りあげる工房で活躍する女性職人に密着した。
鉱物の焼ける匂いが漂う工房の中心に、巨大な円形の溶解窯が置かれている。天井から伸びたさまざまなパイプ、音を立てて燃える真っ赤な炉……。
圧倒的な存在感である。
ルツボと呼ばれる溶けたガラスの入った壺が、窯にはいくつも備え付けられている。その周囲では紺色のシャツを着た職人たちが、一定のペースで吹き竿を入れ、赤い水飴のようなガラスを巻き取っていく。そして、竿を渡された別の職人が、そのまま続けざまに「玉」と呼ぶ「基礎」を吹いて作る。
一人の手からまた次の一人の手へ――。分業化された工程がリズミカルに繰り返される様子は、まるで何かの儀式のようだ。
そのなかに、凛とした雰囲気を漂わせる女性がいた。黒い髪を後ろで束ねた彼女はこの日、丸いグラスの最終工程を担当しているようだった。
吹き竿を型に押し付け、それからガラスに空気を入れて形を整えていく。竿の先にあるガラスをじっと見つめ、製品の出来を確認する視線が鋭い。それがこの菅原工芸硝子(Sghr。スガハラ)の製造部門の副部長を務める内藤有紀さんだった。
「今日作っているグラスの場合、作業は4人で行います」と彼女は言う。
「グラスの基礎となる玉を吹く人、本体のタネを巻き取る人、型に入れて吹く人、そして、最後に完成した品物を運ぶ人。それぞれが次の作業を担当する職人を待たせないよう、工程の流れにうまく乗って、淡々と同じペースで動くことが大事なんです」