2月にピークを迎える中学校入試。今年の入試を振り返る説明会で、国語問題の傾向について説明を受けた河崎さんは、ある男子校の国語問題に深く感じ入ったという。その理由とは……?
「今冬に終了した中学入試の国語における傾向ですが、物語文では特に、子どもたちとはまるっきりかけ離れた立場にある登場人物の心情を答えさせる問題が目立ちました」
“中学入試問題分析会”と題された塾の説明会で、壇上の国語科担当者が話し始めると、聴衆はしんとして聞き入った。
「某・超難関男子校では、昭和30年代の20代女性の恋愛感情や嫉妬、さらに主人公の姉である31歳女性の人生について考えさせる問題を出題しました。思春期前の現代の12歳男子たちにとっては、これは超難問です」。保護者たちのさざ波のような笑いに混じって、男子を持つのであろう一部の母たちの「そんなの、うちの子には無理……」のヒソヒソ声が聞こえてくる。
中学入試の国語問題は、学校から受験生へのメッセージ
さすがだなぁ……。私はひとり深い感慨に包まれ、その大ホールを埋めるどのお客さんにもおそらく負けないほど、シビれまくっていた。私は大学受験予備校や中学受験塾で国語講師(英語や小論文も)だったことがあって、こと国語の問題文に対してはオタクマインドがムズムズする。
受験では、入試問題はその学校から受験生へ宛てた手紙だと言われる。このような問題に取り組み、答えを出そうとしてくれる子に来てほしいと伝える、手紙なのだと。だからそういった素材文を選び、あえての傍線引きをし、作問するその学校の先生たちには、「この人物がどれほどキミ自身とかけ離れ、身近に似たような人物がいなくとも、この人物のここでの心情を、他でもないキミが背景と文脈と細部から読み取って、表現しなさい。そういうことのできる子に入学してほしいんです」という、受験生へ向けた明確な意図があるのだ。