治療3:閉経後でも妊娠が可能に
●閉経直後なら原始卵胞が残っている
聖マリアンナ医科大学病院の河村和弘先生は、一昨年に、閉経後の女性の、妊娠~出産を成功に導きました。
閉経後であっても、卵巣には、卵子になるはずだった原始卵胞というものが、まだかなり残っているのです。その細胞を活性化させることで、再び卵子を作り、体外受精により妊娠、というのがその手順となります。
「この患者さんは、30代にもかかわらず月経が終わるという早発閉経の方でしたが、50歳頃に生理が止まる一般的な閉経でも、同じ手法で妊娠に導くことは可能です。閉経直後であれば、原始卵胞はまだ1000個近く残っている人が多いのです。それが、だんだんと体に吸収され、ある程度の期間でゼロとなってしまう。その前の、閉経後比較的早い時期であれば、かなり高い確率で、この方法は使えるはずです」
先生の手がけた症例数から見ると、原始卵胞がしっかり残っているケースでは5割が採卵に成功しているそうです。河村先生に詳しく聞いてみました。
「この方法は、卵巣の中の原始卵胞に刺激を与えて、成熟した卵子へと成長するように活性化したあと、小さな断片にした卵巣を卵管のしょう膜という薄い膜と卵管の隙間に移植して戻します。そのあと卵子まで発育させるのは卵管なのですね。だから、卵管などに問題があるとうまく育たないケースが出てしまいます」
――ということは、高年齢で卵管も弱っている場合は難しいのでしょうか。
「いいえ。卵管や子宮は女性ホルモン=エストロゲンを適量与えれば機能します。閉経後で一度活動を終えた卵管や子宮でも、また機能しだします」
――閉経直後に卵巣をきちんと保存しておけば、たとえば、60歳でも子どもがつくれるということですか。
「理論的にはそうでしょうね。ただ、移植した卵巣から採卵を行い、体外受精をします。卵子の老化により体外受精から出産に至る確率はご存じのとおり加齢で下がっていきますので、当然、出産できる確率は下がります。また、妊娠に関係する深刻な合併症も高齢の方では起こりやすくなります。そしてもうひとつは、60歳で出産して本当に幸せか、たとえば、その子の成長を見守れるか、などの問題が残りますが」
1996年秋田大学医学部卒業。早発閉経の不妊治療に力を入れ、妊娠不可能と考えられていたケースでも治療に成功してきた。聖マリアンナ医科大学准教授兼生殖医療センター長。
イラスト=Takayo Akiyama