例えば被災地で、人口何十人という集落を守るために、何十億円という予算をかけて、いままで以上の規模をもつ防潮堤を再建してしまう計画なんていうのも、そういうもののひとつかもしれませんね。
あるいは、将来的な利用が不安視されているような広大なエリアをかさ上げすることなどもそうです。
そうしたことがおかしいなと思いつつも、われわれ建築や都市づくりに携わる人間ですらあらがえない。社会制度が硬直化していることに直面しているわけです。
震災後、そうしたモヤモヤした思いを抱えながら仕事をしているときにこの本に出会いました。
建築とは別の視点から、ものをつくるとはどういうことなのか、そもそも、人間が、自然に手をいれることとはどういうことかを問いかけられて、いろんな意味で反省させられました。と同時に、自分の主張をとてもシンプルに実行している方がいることに、勇気づけられました。
発想のリセットにもなりますね。直接的なアイデアの源泉にはならないのですが、自分がそもそも何をしたいのか、すべきなのかを深く考えさせられる一冊でした。
●好きな書店
紀伊國屋書店、Amazon
●好きな読書の場所
移動中、寝る前の布団の中
●好きな作家
吉田健一、穂村 弘
建築家。1969年大阪府出身。2000年に乾久美子建築設計事務所を設立。主な作品はディオール銀座、日比谷花壇日比谷公園店。11年より東京藝術大学美術学部建築科准教授。
構成=中津川詔子 撮影=岡村隆広