建築の仕事をしていると、「本当にそれは必要なんだろうか」と思うことがあるという乾久美子さん。そんな思いを抱えていたときに出会った『動いている庭』で考えさせられたこととは?

フランスの造園作家が提唱する荒れ地の美学

『動いている庭』は半分が造園の技術書で、半分は思想書という不思議なつくりの本です。著者のジル・クレマン氏はフランス人の造園学校の先生。

『動いている庭』

といっても、私はこういう方がいるということも知らなくて、たまたま手に取ってみたところ、たいへんに面白かったんです。

この本で提唱されている「庭」は、いわゆる「荒れ地」の中に、新しい庭の可能性を見つけようというものなんです。荒れ地は一見するとただの雑草の生えた土地かもしれないけど、それも庭とみなしてみてはどうだろうと。

「建物が建てられていない部分は生物に満たされ、動きがある。それが庭の実質である」として、ご自宅の庭でも実験をされているんです。こういう色の花を植えようとか、こういう形の木を植えようという計画は一切しない。風や鳥が運んでくる種子が落ち、芽を出し、茎が伸びるにまかせていく。でも、その写真を見ると、とてもきれいなんですよ。

これはすごく新しいというか、面白い考え方だなと。人が何かものをつくるとき、完成予想図なしに動くなんて、普通は考えられないじゃないですか。

私自身、「決め事」がとても多い仕事に関わっているので、よけいそう思うのかもしれません。建築などの設計に従事していると、「本当にそれは必要なんだろうか」と首をかしげたくなるような目標値が、あらかじめ設定されていることが多いんです。