シーリグ教授の教え子たちの活躍は目覚ましい。しかし、私たちから見ると海外の女性起業家たちは、まるで遠い存在のようでもあるが……。教授は言う。「賢明で忍耐強い日本女性は、男性と違う体験を持ち、男性が見ていないものを見ています。そこにユニークな機会があるので、女性であるということが起業の障害にはならないでしょう」。ただ、国、文化、地域によって男女の置かれた環境に差異があるので、ときにそれを乗り越えなければならない。「これはひと口には語れない問題です。米国内でもニューヨークとシリコンバレー(の起業環境)は違います。しかし、米国では女性たちが社会的な地位を向上させており、ゆっくりではあるものの起業の動機を持つ女性たちが、起業の世界を変革中です」
最近シリコンバレーで取材した起業イベントでは、参加企業の創業者の約4割が女性だった。では、女性が起業の夢をかなえるには具体的にどうすればよいのだろうか。
「女性の特別な視点を活かすべきだし、女性ならではという得意なことを活用するのです」。スタンフォード大学の学生たちの例でいえば、女子学生は多くの人々とネットワークを構築し、関係性を築き上げ、コミュニティーを支援することが上手。関係性を大事にすることは、後々役立つ素晴らしい資質である。有効な人脈を築き上げることは起業においてもっとも重要。ほかの学生たちが後に顧客や資金を援助する投資家になることも多いのだ。
起業したいという夢を単なる夢で終わらせず、一歩踏み出すためには、「何がなんでもやる姿勢と情熱が大事。起業は赤ちゃんの状態から始めないと」。教育、旅行、育児、どんな分野でも自分が好きでやってみたいことに、少しずつでも着手する。実際に動き始めるといろいろな機会が訪れる。失敗もあるだろう、つらいことも多いだろうが、あきらめず賢く乗り越え、経験を積むことで世界が開けていく。
「取り掛かったら、尽きない動機が必要です」と教授。また、先に成功した女性たちの支援やアドバイスを受けることも大いに役立つという。
スタンフォード大学医学部博士号を取得後、現在は同大学経営科学・工学部の実践教授。STVPのエグゼクティブ・ディレクターとして、約16年間起業家としての技術を学生たちに伝授。著述や講演も行っており、長男・ジョシュに向けて書かれた『20歳のときに知っておきたかったこと』(阪急コミュニケーションズ)は 、日本でも数十万部のベストセラーに。2011年にはNHK「スタンフォード白熱教室」にも登場。新書『Insight Out』が今年5月に出版されたばかり。
撮影=Ayako Jacobsson