最近読んだ『ビジネスモデル全史』は、切り口が斬新でとても面白い本でした。何が斬新かというと、異なる時代に革新的なビジネスモデルを創造した人物同士の、架空の対談が載っているのです。たとえば、三越の前身、越後屋を創業した三井高利とシリコンバレーの生みの親であるフレッド・ターマンの対談なんてものが出てきます。人選も面白いのですが、異なる時代を生きたイノベーターを対談させることによって、ビジネスモデルの変遷を歴史観をもって俯瞰(ふかん)できる仕掛けになっていて、その点がとても刺激的でした。

【写真上】『ビジネスモデル史』【写真下】『「幸せ」の決まり方』

私がインテルに入社するきっかけになった本に、インテルの創業メンバーの一人であるアンドリュー・グローブの『Only the Paranoid Survive』があります。私は1990年代のほとんどをアメリカで過ごしましたが、アンディーは97年にTIME誌の“Man of the Year”に選ばれ、インテルはアメリカで注目を集めている企業でした。

私はアンディーの本を読んでインテルに興味を持ち、後に、まったく偶然にインテルからオファーを受けたのですが、アンディーの本のどこに共感したかというと、それは彼の持っている危機感でした。移民の子としてアメリカに渡ってきたアンディーには、いつどこに人生の落とし穴が開いているかわからないという危機感が常にあったのですね。だから慢心することなく、いつも高みを目指して生きていた。

「いままでになかったもの」をつくり続けるためには、アンディーのような向上心が重要だと思います。私自身も、「常に高いところを目指したい」という強迫観念めいたものを抱えているとても貪欲な人間。ある仕事に熟練して簡単にできるようになると、やり方を変えたほうがいいんじゃないか、もっと別の見方があるのではないかと考えてしまう。常に現状に満足することがないという意味では、案外リーダーに向いた性格なのかもしれません。

「いままでになかったもの」をつくるために、たくさんのビジネス書を読んできました。

最近IT業界では、半導体がいまよりもっと小さくなって、ありとあらゆるものに人工知能が応用されるようになったら、人類の能力を超えてしまうのではないかという議論が盛んです。IoT(Internet of Things)という言葉も流行していますが、世の中のあらゆるものがインターネットに接続されるようになったら、社会はどう変わるのかという議論もよくされています。

ITは、人間がより豊かに、より幸福に生活するための技術であるはずですが、そもそも幸せとは何なのかといったことは、IT業界が突き詰めて考えていかなければならないテーマだと私は思うのです。『「幸せ」の決まり方』は、そんな問題意識から手に取った一冊です。想像以上にアカデミックな内容の本でしたが、幸福とは何かを考える際の「角度」は、とても参考になりました。