そうしたメリットをあえて捨てて、武力を使って紛争に首をつっこんでいく大義が不明だ。これまで欧米各国が紛争地域に軍事介入して現地の人の命を奪ってしまっている一方で、日本はある意味“けがの功名”ではあるが、これまで1人も殺していない。そのポジションを大事にしたほうがいい。

イラスト=Yooco Tanimoto

他国と同じ“普通の国”になるため、という論法がよく使われるが、それは違う。憲法前文でもうたっている「専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ」を実際に行ってきたのが、日本および自衛隊である。その理想の下に、逆に日本のような国が“普通の国”となるよう今後も努めるべきだ。そういう観点からとらえてみれば、「非戦」「平和」というのは日本にとってだけでなく、長い目で見て国際社会にとっても有益なはずだ。

こうした国際貢献に関する議論とは別に、ますます強まる中国の脅威に対抗して、日米の安全保障体制を強化するために、集団的自衛権を行使できるようにしないといけない、という意見もある。しかし、日本の領土・領海への中国の脅威に対処するならば、個別的自衛権で十分だ。そもそも「抑止力」というのは米ソ冷戦時代の考え方であり、経済をはじめ、あらゆるものが世界中でつながっている現代では通用しない。「相互依存」こそが時代のキーワードである。

問題の多い今回の安保法制だが、安倍政権に対して評価していることがある。それは多くの人に、「ひょっとしたら日本も戦争に巻き込まれるかもしれない」という危機意識を植えつけたことだ。

柳澤協二(やなぎさわ・きょうじ)
国際地政学研究所理事長、新外交イニシアティブ理事。防衛庁に入庁し、2004年から09年まで内閣官房副長官補(安全保障政策・危機管理担当)。
 

構成=Yukihiko Arai イラスト=Yooco Tanimoto