佐々木さんの明快な解説を聞きながら、ふと思い出したのが、昨年大ヒットした映画『アナと雪の女王』である。

女王・エルサは、誰もが驚くような魔法の力を持ちながら、それをひた隠しにする。まるでインポスター・シンドロームで苦しんでいるようだ。雪山を登りながら、次第に心が解放され、「レット・イット・ゴー(ありのままで)」を高らかに歌い上げる。あの曲が大ヒットしたのは、現代社会に生きるたくさんの人が、自己評価と他者評価の不一致に悩んでいるからではないか。

エルサは、「他者評価を無視していい」と言っているのではない。他者評価を無視するなら、雪と氷の城に閉じこもっていればよいはずだ。彼女が王国へ戻り、国民から高い評価を受ける女王に成長して、物語は終わる。自己評価と他者評価の一致が起きたのだ。

実際のところ、インポスター・シンドロームを克服するベストの方法は、個人フィードバックをするという佐々木さんのやり方であろう。ただし、佐々木さんの会社のような良好な職場で働く幸運に、誰もが恵まれるとは限らない。むしろ、自己評価と他者評価が一致しないほうが、世間では当たり前である。自己評価と他者評価の不一致という、誰にでもある心の動きを通して、インポスター・シンドロームの問題を考えてみたい。

※次回は、インポスター・シンドロームに陥りがちなパターンごとに解説と解決法を説明します。

ゾム株式会社 代表取締役 松下信武
1944年、大阪府生まれ。京都大学経済学部卒業。日本電産サンキョー・スケート部メンタルコーチ。専門は情動心理学。