轟音と渦。水がつくる不思議な現象

Anish kapoor(アニッシュ・カプーア)氏の渦を巻く作品「Descension/2014」 Courtesy:The artist
カプーア氏は、メイン会場の床に穴を掘り、4トンの海水が常に高速で渦を巻く大作を発表し話題となった。1954年インド・ムンバイ生まれ。ロンドン在住の現代美術家でイギリスで権威のあるターナー賞(1991)や高松宮殿下記念世界文化賞(2011)を授賞するなど世界的に活躍している。

ビエンナーレの見所の一つに、歴史的建造物をほぼそのまま会場として使っていることがあげられます。海岸沿いの広大なメイン会場からは、1階、2階ともに窓から海が一望に。多くの作品も、こうした環境に呼応するように制作、インスタレーションされていました。

MoMAで個展を開いたインド出身の大御所作家、アニッシュ・カプーア氏は、轟音を響かせながら水が高速で延々と渦巻くダイナミックな新作を、海に向かって扉が開け放たれた空間に展示しました。見つめていると、今回のテーマを立体化したような大迫力の渦巻く波の中に引き込まれそうに。光の加減で漆黒にもみえる水中から、何か出没しそうな不穏な気配も漂います。そして単純ながらやけに大仰な装置がちょっとした笑いを誘うなど、彼の作品は単純な形態ながら、見る側の感覚を静かに揺さぶり続けます。

今回は床に直接3メートルの幅と深さの穴を掘り、海から引き込んだ4トンの海水を一定のリズムで回転させるシステムを作り上げています。数々の彫刻作品で知られている作家自身はメディアの取材に対し、「彫刻ではなく、不思議な現象をつくりたかった」と語りました。

ビエンナーレ公式のメイキング映像には、ちょっと面白い制作の裏側が紹介されています。https://www.youtube.com/watch?v=OpBgGSE-FsE

テーマ「Whorled Explorations」とは?

直訳すると「渦巻きの探検」。螺旋や渦巻きを現すWhorled(世界を意味するworldとは発音が同じ)と、探検や探求を意味するExplorations(大航海という意味も含む)から構成されている。このテーマの起点となるのは、直接は関係ないものの、14世紀から17世紀に起こった、交差する2つの歴史的な出来事だ。

ケーララ州は大航海時代の主要な交易都市であり、中世以降のインド数学に貢献した数学や天文学の分野でケーララ派が誕生するなど、学術的・歴史的に重要な役割を果たした。ビエンナーレを、この土地に一時的に組み立てられた展望台に見立て、歴史や地理、宇宙、時間、空間、幻想、神話などを参照した世界地図を描く試みとした。

作品には伝説的な大航海時代のさまざまなキーワードが宿っている。