失敗は数えきれないほど

そこに至るまでの失敗談は数え上げればキリがありません。特に設備の立ち上げを担当した際は予定通りに機械を動かすことができず、本社の制御系システムのエキスパートに頭を下げて、応援を頼んだようなこともありました。期間内に製造を開始しなければならないという逃げ場のない状況の中で、自分の力だけではどうにもならなかったことは何度もあります。

つらいことも落ち込むこともたくさんありましたが、1つだけ幸いしたと言えるとすれば、自分自身がわりと楽観的な性格をしていたことでしょうか。

職場は男性ばかりですが、私はどういうわけかみんなから「誰よりもオヤジっぽい」とよく言われるんです(笑)。まあ、お酒もそこそこ飲みますし、小さいことにはくよくよせずに、何かあっても「みんなで飲んで気分でも変えよう」「明日は明日でがんばろう」って思えるのはもともとのキャラクターなのかもしれません。

欲しいものはすべて手に入れて欲しい

まだ女性が少ない技術職の現場に入ってくる後輩に伝えたいのは、仕事に臨む姿勢が真摯でさえあれば、職場での男女の区別はいずれ取るに足らないものになるということですね。目の前のことに対してしっかり責任をもって、逃げずにきちんと1つひとつをやりきる。「女だから――」と言われることも確かにあるかもしれないけれど、若い男性社員だって工場に来れば、ベテランの人に「この若造が何だ」と言われるものです。それと同じで、仕事にきちんと臨む姿勢を持っていれば、そうした言葉は3日も経てば全く言われなくなるはずです。仕事に対して熱意と誇りを持って取り組んでいる人同士というのは、必ず最終的にはわかり合い、お互いを認め合っていくものですから。

私が社会に出た頃は、キャリアを作っていくための道が1本しかなくて、何かをあきらめなければ何かが手に入らない、というところが女性のキャリアには確かにありました。結婚や出産というのもその1つだったでしょう。

でも、いまは時代も変わりつつあり、思い描いていた1つの道をたとえ進めなくても、いろんなルートを通りながら、最初に向かおうと決めた同じゴールに辿り着けるようになってきたと思います。だからこそ、いくらでも道はあるんだと思って何事もあきらめず、欲しいと思ったものはすべて手に入れて欲しいですね。

●手放せない仕事道具
試飲ノート

●ストレス発散法
ジョギング、水泳、おいしいものを食べ、おいしいものを飲む

●好きな言葉
妥協しない、あきらめない

キリン R&D本部 酒類技術研究所 副所長 神崎夕紀(かんざき・ゆき)
1963年福岡県出身。大学院卒業後、バイオベンチャー企業を経て92年キリンビール入社、福岡工場品質保証担当。97年神戸工場品質保証担当へ異動し工場立ち上げに参加。98年神戸工場醸造担当へ異動。2006年より醸造担当部長。2013年より現職。

稲泉 連=構成 向井 渉=撮影