千代と5人の弟妹は父から解放された
「ありゃ、こいつらはくちばしをくっつけとるでよ」。一羽のカナリヤが口づけしているようなのを見て、子供の一人が言った。ふいに、あは、あは、と低い笑い声を立てた。この家の中に笑い声がする。思いもかけぬことであったが、誰もそれをとがめるものがないのを知ると、今度は大声を上げて、あはははは、あはははは、と続けて笑い転げるのであった。
しかし、そのことがあってからも、すぐにはこの家の習慣は変わらなかった。沖ノ町の方から、「東西、東西」と言うでこ廻しの太鼓の音が聞こえて来ても、子供たちは誰も往還へ駆け出すものはいなかった。以前そうであったように、よその子供たちも外からうちの子供に声を掛けようとはしなかった。それはほんの十日ほどの前の習慣と同じことであった。「うちじゃあ、見には行かんのじゃ」。子供たちは顔を見合わせてそう言っていたのに、ただ一人、長男の薫だけが、或る日、下駄をつっかけて、いきなり表へ駆け出して行ったのであった。
