草間にしかできなかった表現とは

そんな草間が実際に亡くなった今、美術史のなかで彼女がどう位置付けられるかはこれから明らかになっていくのだろうが、ここではむしろ、逆境のなかで膨大な仕事を残してきた草間の制作の原動力に目を向けたい。

直島に設置された草間のカボチャの彫刻
写真=iStock.com/7dd11556_911
直島に設置された草間のカボチャの彫刻

それは「恐怖を凝視する」ということだ。

幻覚や幻聴が現れればそれを絵にし、強すぎる自我は「自己消滅」というテーマに向かわせる。ファルス(男性器)を恐れれば大量のファルスのぬいぐるみを作り、自殺したくなれば「自殺した私」を制作する。恐怖から逃げるのではなく、恐怖そのものを作品にする。これは容易なことではない。

人は、定められた条件のなかで生まれ、生まれた場所も、過去も、性格も、身体も、簡単には変えられないが、それとどう向き合うのか。

草間の仕事は、その問いを私たちに突きつけているのではないだろうか。

・参考文献
草間彌生『無限の網 草間彌生自伝』新潮社、2012年
草間彌生、建畠晢ほか著、和田侑子、小林豊子 訳『草間彌生わたしの芸術』グラフィック社、2019年
建畠晢監修『草間彌生 芸術の女王(別冊太陽 日本のこころ 225)』平凡社、2015年
楠瀬佳子、三木草子 編『「わたし」を生きる女たち 伝記で読むその生涯』世界思想社、2004年
西丸四方『彷徨記 狂気を担って』批評社、1991年
草間彌生、横尾忠則「ヴィジョンの降臨」『季刊みづゑ』(958)美術出版社、1991年
横尾忠則『見えるものと観えないもの』ちくま文庫、1997年
「日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ」

平山 亜佐子(ひらやま・あさこ)
文筆家

文筆家、挿話収集家。戦前文化、教科書に載らない女性の調査を得意とする。著書に『20世紀破天荒セレブ ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝 莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(編著、左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)、『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)など。