草間にしかできなかった表現とは
そんな草間が実際に亡くなった今、美術史のなかで彼女がどう位置付けられるかはこれから明らかになっていくのだろうが、ここではむしろ、逆境のなかで膨大な仕事を残してきた草間の制作の原動力に目を向けたい。
それは「恐怖を凝視する」ということだ。
幻覚や幻聴が現れればそれを絵にし、強すぎる自我は「自己消滅」というテーマに向かわせる。ファルス(男性器)を恐れれば大量のファルスのぬいぐるみを作り、自殺したくなれば「自殺した私」を制作する。恐怖から逃げるのではなく、恐怖そのものを作品にする。これは容易なことではない。
人は、定められた条件のなかで生まれ、生まれた場所も、過去も、性格も、身体も、簡単には変えられないが、それとどう向き合うのか。
草間の仕事は、その問いを私たちに突きつけているのではないだろうか。
・参考文献
草間彌生『無限の網 草間彌生自伝』新潮社、2012年
草間彌生、建畠晢ほか著、和田侑子、小林豊子 訳『草間彌生わたしの芸術』グラフィック社、2019年
建畠晢監修『草間彌生 芸術の女王(別冊太陽 日本のこころ 225)』平凡社、2015年
楠瀬佳子、三木草子 編『「わたし」を生きる女たち 伝記で読むその生涯』世界思想社、2004年
西丸四方『彷徨記 狂気を担って』批評社、1991年
草間彌生、横尾忠則「ヴィジョンの降臨」『季刊みづゑ』(958)美術出版社、1991年
横尾忠則『見えるものと観えないもの』ちくま文庫、1997年
「日本美術オーラル・ヒストリー・アーカイヴ」
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