1980年の銃撃事件、夫を失った

そして1980(昭和55)年12月8日、洋子のシングル「ウォーキング・オン・ザ・シン・アイス」のセッションを終えて帰宅した瞬間、ジョンは自宅であるダコタ・ハウスの玄関で銃撃される。病院に緊急搬送されたものの、死亡が確認された。

ニューヨークで洋子がジョンと暮らし銃撃されたダコタハウス
写真=iStock.com/Alexander Farnsworth
ニューヨークで洋子がジョンと暮らし銃撃されたダコタハウス

洋子は翌年1月18日、各国の新聞に全面広告「感謝を込めて」を掲載した。そして、その後、誰とも結婚することはなかった。

興味深いことに、ジョンの死後、洋子への評価はむしろ高まっていく。

転機となったのが、2001(平成13)年9月11日のアメリカ同時多発テロだった。

事件から間もなく、洋子はニューヨーク・タイムズ紙日曜版に「Imagine all the people living life in peace」という全面広告を単独で掲載。これによりアメリカ政府は反戦の機運が高まることを恐れ、放送局は「イマジン」を流すことを自粛した。

広告で平和のメッセージを発信

傷つけられたときにこそ想像力を持とうというメッセージは、人一倍傷つけられてきた洋子だからこそ、重みを持つ。また、同じジョンを愛する人間として洋子とアメリカ国民は初めてひとつになったのだ。

同年、回顧展「イエス、ヨーコ・オノ」が最優秀美術館展賞を受け、洋子はリヴァプール大学から名誉法学博士号を授与される。翌2002(平成14)年にはスカウヒーガン・メダルとバード・カレッジの名誉美術学博士号を、2005(平成17)年にはニューヨーク日本協会の特別功労賞を受ける。2009(平成21)年にはヴェネツィア・ビエンナーレの生涯業績部門金獅子賞を受賞。東日本大震災に際しても、赤十字への寄付や息子ショーンらを交えたチャリティ公演を行い、第8回広島賞を受賞、広島市現代美術館で個展「THE ROAD OF HOPE(希望の路)」を開催した。

「イマジン」の共同制作者と認められる

2017(平成25)年、全米音楽出版社協会が「イマジン」を「世紀の歌」として表彰し、洋子を共作者としてクレジットすると発表した。ジョンが生前、洋子の『グレープフルーツ』から着想を得たと語っていたことを踏まえた決定である。息子のショーン曰く、この発表に84歳の洋子は涙ぐんだという。

ニューヨークのセントラルパークにある「イマジン」の碑
写真=iStock.com/E_Rojas
ニューヨークのセントラルパークにある「イマジン」の碑

二度の結婚を経て洋子がたどり着いたジョン・レノンは、紛れもなく最大の理解者でありソウルメイトだった。だが、異国の地で日本人女性として世界的スターと一緒になることには大きな代償もあった。皮肉にも、彼を失った後にようやく、洋子自身の言葉と存在が世界に届くようになったのである。

小野洋子の人生を辿るとき、その孤独と闘いの重さをあらためて思わずにはいられない。

そして、妻や母である前にひとりの人間として夢を追い続けた洋子の生き方は、一人何役も担う今を生きる女性たちへの大きなエールでもある。

・参考文献
オノ・ヨーコ『ただの私』講談社文庫、1990年
ジョン・レノン、オノ・ヨーコ 著、池澤夏樹 訳『ジョン・レノン ラスト・インタビュー』中公文庫、2001年
ジェフリー・ジュリアーノ著、遠藤梓 訳『ジョン・レノン アメリカでの日々 消えた日記に見る真実のレノン』WAVE出版、2003年
メイ・パン『失われた週末
ジョン・グリーン 著、鈴木敬子 訳『ジョン・レノン最期の日々』松文館、1983年
ジェリー・ホプキンズ 著、月村澄枝 訳『オノ・ヨーコ』ダイナミック・セラーズ、1988年
飯村隆彦『ヨーコ・オノ人と作品』水声社、2001年
和久井光司『ヨーコ・オノ・レノン全史』河出書房新社、2020年
「小野洋子を生んだ安田財閥系図」『週刊文春』11(15)(517)文藝春秋社、1969年
加藤英明「わが偉大なる従妹 小野洋子」『文藝春秋』47(8)文藝春秋社、
「現代の英雄⑧小野洋子」『週刊文春』16(18)(775)文藝春秋社、1974年
「伝記 小野洋子からヨーコ・オノまで」『ヤングレディ』講談社、1978年4月
Billboard Japan「オノ・ヨーコ、『イマジン』の共作者に正式認定」2017年6月16日

平山 亜佐子(ひらやま・あさこ)
文筆家

文筆家、挿話収集家。戦前文化、教科書に載らない女性の調査を得意とする。著書に『20世紀破天荒セレブ ありえないほど楽しい女の人生カタログ』(国書刊行会)、『明治大正昭和 不良少女伝 莫連女と少女ギャング団』(河出書房新社、ちくま文庫)、『戦前尖端語辞典』(編著、左右社)、『問題の女 本荘幽蘭伝』(平凡社)、『明治大正昭和 化け込み婦人記者奮闘記』(左右社)など。