「デジタル教科書」や「AI」の活用など、教育現場でのデジタル化が進んでいる。東京大学大学院総合文化研究科の酒井邦嘉教授は「非常に危険な兆候だ。先進的に導入を進めてきた北欧でいま、紙への回帰が進んでいるという現実を見ればその結果は明らかだ」という――。

※本稿は、酒井邦嘉『AI脳クライシス』(集英社インターナショナル)「デジタル教科書時代への警鐘」より一部を抜粋・再編集したものです。

生徒と笑顔の女性教師
写真=iStock.com/Caiaimage/Sam Edwards
※写真はイメージです

デジタル教科書の何が問題なのか

近年は教育現場でも、デジタル機器やデジタル教科書の波が押し寄せています。私はこれまで、「紙の本」の優位性について繰り返し述べてきましたが、それは教育でも同様です。教育でのデジタル化は、大人の読書習慣などにおけるデジタル化よりもはるかに大きな影響があると考えられます。

学習者用デジタル教科書の活用状況(児童生徒)
出所=「デジタル教科書をめぐる状況について」(文部科学省デジタル教科書推進ワーキンググループ第12回配布資料より)

そこで、紙の教科書やノート、手書きといった従来の「アナログ的な学び」の消失が、子どもの脳や学びにどのような影響を与えるのかについて、改めて考えてみたいと思います。

紙の本は、「読み書き」や「記銘」などの学習活動においても、デジタル機器よりはるかに優れています。紙の利点として、たとえば「先ほど読んでいたのは、右ページの上の辺り」とか、「見開きの図の下」といった実体としての手がかりが豊富です。

学習者は、何がどこにどのように書かれていたのか、という空間的な手がかりも利用して内容を記憶していきます。また、字を書く際にも、ノートのどの辺に書いたのか、という視覚情報が記憶の定着を促すことも明らかになっています。

これがデジタル機器になると、いくらでも画面上でスクロールしたり、拡大縮小したりできてしまうので、位置関係が分からなくなってしまいます。デジタル端末の場合は、位置情報が希薄になりやすいということです。

QRコードやリンクが逆効果なワケ

それに、デジタル機器のスイッチを切れば、教科書という実体が一瞬で消えてしまいます。学習ツールとして、はなはだ不適なデザインですが、誰も気にしないようです。

人間の思考はそう簡単にとぎれるものではなく、分かったつもりでも少し経ってから未消化の部分に気づいたりするものです。すぐにページを開いて見直せることが学習では大切なのです。

紙の教科書も詳細な情報を示すQRコードが今や花盛りですが、そのようなリンクがたくさん掲載されることによって、紙の教科書の情報量をはるかに超えてしまう恐れがあります。そうすると、何をどこまで学んだらよいかということが分からなくなってしまいます。

教科書の二次元コード数の状況
教科書に掲載されたQRコード数の推移(出所=「デジタル教科書をめぐる状況について」〔文部科学省デジタル教科書推進ワーキンググループ第12回配布資料より〕)

これは学習活動において大きな問題です。なぜなら、学習の基本は「限られたものに繰り返し触れる」ことであるからです。にもかかわらず、デジタル化によって情報過多となれば、その根本が損なわれてしまいます。