理由③直近数年に“歴代トップ級の大雨”が集中
以上の理由は人間の感覚に依存するものでしたが、3つ目の理由はより科学的です。2012年の平成24年7月九州北部豪雨、2017年の平成29年7月九州北部豪雨、2020年の令和2年7月豪雨はいずれも似たような地域で梅雨期に大雨をもたらし、どの事例でも観測開始以来1位の雨量を記録した地点が多数報告されました。
つまり、最近の9年の間に、史上最大レベルの大雨が3回も起こっているのです。このように、最近の数年の間に歴代トップになるような甚大な異常気象が集中して起こっている状況を考えてみましょう。
仮に過去150年分のデータを取ってくることができたとすると、150年の間に3回、つまり、50年に1回の大雨、ということになりますが、実際は150年分ものデータを得ることはできません。100年分のデータしかないとすると、100年の間に3回、つまり約30年に1回の大雨です。気象庁による異常気象の定義は「30年に1回以下で発生する現象」なので、ぎりぎり異常気象に認定される程度です。
さかのぼって50年分のデータだと17年に1回程度(50年に3回)なので異常気象ではなくなってしまいますし、過去10年分のデータだけ使うと約3年に1回(10年に3回)となり、もはやあたりまえの現象ということになってしまいます。
時系列の終わりに大雨が偏っている
簡単な算数の話ですが、同じ大雨なのになぜこういうことが起こるのでしょうか? 原因は、大雨が起こった時期が最後の数年に集中しているからです。大雨の発生が過去数十年の間にばらばらに起きていれば、こういうことにはなりません。
つまり、たまたまか必然かは置いておいて、時系列の終わりの方に大雨の発生が偏っていると、50年に1度の大雨をここ数年で何回か経験している気がしても不思議ではないわけです。
ただし、先程述べた通り、現象の発生確率(○年に1度)を見積もる際に、歴代トップに近い現象を対象にしようとすればするほど、誤差は増大していきます。さらに、利用するデータの年数が少なくなると、1回起こるか起こらないかの差が結果に大きく影響してきますので、観測データだけを使った異常気象の発生確率の議論にはデータサンプル数の限界があります。
ところで、我々の業界では、観測のサンプル数が足りない、といわれると、じゃあ気候モデルを使って足りないサンプルを補えば良い、という発想になります。ここでいう気候モデルとは、天気予報や地球温暖化予測のシミュレーションに用いられている数値モデルのことです。これは必ずしもあたりまえの手段というわけではありませんが、スーパーコンピューターの発展により近年盛んに行われるようになってきました。
今後、気象ニュースなどで「○年に1度」という言葉を耳にしたら、本記事で紹介したポイントも考慮してみると、より一層理解が深まるかと思います。
(参考文献)
・文部科学省及び気象庁「日本の気候変動2025」
長崎県出身。2010年東京大学大学院理学系研究科博士課程修了。東京工業大学大学院情報理工学研究科(現・東京科学大学情報理工学院)産学官連携研究員、気象庁気象研究所気候・環境研究部主任研究官などを経て、2023年4月より現職。専門は気候力学で、気候モデルシミュレーションを用いて気候変動や異常気象のメカニズム研究を行っているほか、数カ月から数年先の気候予測にも挑戦している。世界気候研究計画(WCRP)の各種委員を歴任。2019年度日本気象学会正野賞、第5回地球惑星科学振興西田賞、第46回(2026年)猿橋賞など受賞多数。
