脳科学者の中野信子先生が子どもの「感情のコントロール」について教えます。

「目先の欲望を抑制する力は家庭環境でうまく育ちます」

感情コントロールの話題に関連して、脳科学の分野でよく出てくるのが「遅延報酬」という考え方です。目の前の小さな利益よりも、少し先の大きな利益を選べる力のことで、将来の社会的・経済的な成功と相関があるといわれています。「マシュマロテスト」と呼ばれる実験が有名です。子どもに対して、「目の前にマシュマロが一つあります。すぐに食べてもいいけれど、15分待つとマシュマロがもう一つもらえます」という課題を与えます。その後の追跡調査で、我慢できた子たちの能力がすぐに食べてしまった子たちよりも高かった、ということがわかったのです。

衝動のままに行動せず、「今は待ったほうが得かもしれない」と一度立ち止まって考えられる力。これには、脳のブレーキ機能が関わっています。「ゲームをしたいけれど、今は我慢して勉強しよう」、そう思える能力のことです。

この力を担っているのが脳の前頭前野で、とくに「背外側前頭前皮質」と呼ばれる領域です。理性的に判断したり、先を見通したり、衝動を抑えたりする司令塔のような場所で、大人になるにつれ、ゆっくりと育っていきます。つまり、子どものうちは未発達なのですが、トレーニングで鍛えることはできます。

そして、重要なことは、遅延報酬を選べる脳に育つかどうかは、家庭環境や経済的な事情など、子どもを取り巻く環境が大きく影響しているということです。

まず、子どもは親の振る舞いをよく観察しています。子どもには「我慢しなさい」と言いながら、自分は衝動買いをしたり、ダイエット期間中におやつを食べたりしていては、遅延報酬脳はうまく育ちません。

また、強いストレスや継続的な恐怖、人格を否定されているような環境下では、このブレーキ系の働きにダメージを与える可能性があります。親の顔色が気になり、「待つゆとり」を持てない状態なのでしょう。さらに、たとえば極貧や戦時中といった特殊な状況下では、今を生きるために精いっぱいとなり、目先の得を取らざるをえませんから、長期的な判断は難しくなります。

親がコントロールできない事情はともかくとして、ぜひ「待つと得をする経験」を日常の中で意識してつくってください。

※本稿は、『プレジデントFamily2026春号』の一部を再編集したものです。