怒りっぽい、イライラしやすい、キレやすい、我慢できない、わが子のそんな特性をどうしたものか。脳科学者の中野信子先生に子どもの「感情コントロール」について教えてもらいました。
夕暮れ時のビーチでくつろぐ日本人母子
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負の感情も大切。扱い方を教えて

 一般的に、怒らない子、泣かない子、感情を表に出さない子が、感情をコントロールできている子だと思われがちですが、それは誤解です。感情にふたをして、その場をやり過ごしているだけの場合も多いからです。ですから、感情を「消す」「抑える」のではなく、感情を受け止め、必要なときに「使える力」へと変えられるよう導いていくことが大切です。

 ただ、「正しい知識をもとにきちんと育てなければ」「間違えたら取り返しがつかない」と、堅苦しく考える必要はありません。そもそも、子育てに正解はありません。発達には個人差がありますし、子どもは親の思った通りには育ちませんから(笑)。

 それぞれの親御さんの胸に、「こんな子に育ってほしい」といった思いもあるでしょう。でも、親が思う「幸せ」と、子ども本人が感じる「幸せ」は、必ずしも一致しません。

 たとえば、いつもニコニコしていて、言うことを聞いて、社会性が高くて、みんなに好かれる子が理想だと考える親もいるでしょう。ただ、そういう子が将来成功するかというと、それはどうかわからない。成功の定義も人によって異なるでしょうが、地位も名声もある資産家(はた目には成功者に見えます)が、親を親とも思わないような、ある種の冷徹さを持った子だった場合もあります。それが、親の望む子の姿なのか、といったことも含めて、まずは「こうでなければならない」という型を少しゆるめるところから始めていいと思います。

 その前提で感情のコントロールについて言わせていただきたいのは、怒りや悲しみや悔しさは、生きるために必要だから備わっているということです。負の感情もまた人間には必要なのです。もし負の感情が不要なものなら、人間の脳はわざわざそんな仕組みを持たなかったはずです。

 痛みを感じない病気の人は、かえって傷だらけになってしまいます。それと同じで、心の痛みや嫌な思いもまた、危険や不公平、不具合を知らせる重要なセンサーです。なくす対象ではなく、扱い方を学ぶ対象なのです。

 親御さんの中には、なるべく子どもが傷つくような経験をさせたくない、嫌な思いをさせたくないと思っている人もいることでしょう。親としては自然な気持ちです。ただ、人が成長する過程で、傷を一切負わずに育つことはできません。傷ついた経験のない子が大人になってから挫折したときにどうなるか、そちらのほうが心配です。むしろ重要なのは、傷を負ったときの対処法を知っているかどうかです。どうやって立て直すか、誰に助けを求めるか、どうやって次に生かすか、その知恵を授けてやるほうがずっと有用です。

 子どもは、親の言葉以上に、親の振る舞いを見ています。「めそめそするんじゃない」と言いながら、親自身がネガティブな言葉を発していれば、そこもきちんと見抜きます。感情コントロールを教える一番の教材は、親の背中です。完璧である必要はありませんが、失敗したらどう立て直すか、どう折り合いをつけるかを見せることには、大きな価値があります。

 子どもの不安をゼロにしようとするより、「失敗しても立て直せる」というメッセージを伝えてやるほうが、結果として感情と上手に付き合える子に育ちます。

 これから脳科学者として、科学的な根拠に基づいた内容をお伝えしますが、それが正解ということではありません。あくまで育児の目安として参考にしてもらえればと思います。たとえ子育てでつまずいたとしても、子ども本人が大人になってからでも取り戻せます。安心して育児に臨んでください。

【図表1】「感情コントロール」に関する目からうろこの5カ条

※本稿は、『プレジデントFamily2026春号』の一部を再編集したものです。