首都圏の一角に位置し、人口はもとより工業や商業、農業、水産業でも全国屈指。高いポテンシャルを誇る千葉県に、成田空港の機能強化をはじめとするインフラ整備の追い風が吹き始めた。2021年の就任以来、強いリーダーシップで産業政策を推し進める熊谷俊人知事と、規制改革会議委員などの公職を歴任し、現在は政府税制調査会会長も務める翁百合・日本総合研究所シニアフェローが、産業政策を中心に千葉県の未来について語り合った。全4回連載の第1回。

なぜ企業が魅力を感じるか?

バランスの取れた産業構造や理系人材に強み

【熊谷】千葉県の強みは、商業・工業・農業・水産業などいずれの産業分野も全国トップクラスという、バランスの取れた産業構造にあります。さらに、日本最大の貿易港である成田空港や同じく最大の京葉臨海コンビナートのほか、東京大学と千葉大学といった学術・研究機関も立地しており、日本の産業競争力強化に貢献できる基盤を備えています。また、本県は自然も豊かで、良好な生活環境の中で「職住近接」の実現が可能です。手前みそながら、本当に恵まれた県だと思っています。

【翁】東京に隣接し、首都圏の一翼を担っているというだけではなく、産業構造、物流拠点、研究基盤、居住環境の全てが一体となって、一つの経済圏として機能しているのが印象的です。私は極めて高い成長ポテンシャルを持っている県だと認識しています。

熊谷俊人
熊谷俊人(くまがい・としひと)
千葉県知事
1978年生まれ。神戸市出身。早稲田大学卒業後、2001年NTTコミュニケーションズに入社。07年4月、千葉市議会議員。09年6月から千葉市長。31歳での就任は政令指定都市市長としては歴代最年少。3期を務めたのち、21年3月より千葉県知事(現在2期目)。

【熊谷】加えて申し上げると、働きやすく住みやすい環境から、全国的に生産年齢人口が減少していく中でも、労働人口が比較的潤沢です。県内に理工系の大学が多いこともあり、人材が確保しやすいため事業立地に選んでいただくケースも増えつつあるんですよ。

【翁】例えば柏の葉エリアは産学の研究機関が集積している上、居住環境も整っていて、非常に魅力ある街として発展していますね。こうした地域は、全国的に見てとても珍しいと思います。

【熊谷】おっしゃるとおり、地域の拠点性を高めるには居住環境の整備も重要です。加えて重要なのが交通インフラで、こちらは今、大きな進化を遂げようとしています。成田空港では拡張事業を含めた「第2の開港プロジェクト」が進行中で、圏央道や北千葉道路などの道路ネットワークの整備も加速しています。県としてはこれを起爆剤にして産業全体を活性化させようと産業拠点形成への取り組みを強化しています。

翁 百合
翁 百合(おきな・ゆり)
日本総合研究所シニアフェロー
1960年生まれ。京都大学博士(経済学)。慶應義塾大学大学院を修了後の84年に日本銀行へ入行。92年、日本総合研究所へ。2018年から理事長を務め、25年からシニアフェロー。規制改革会議委員などの公職を歴任、24年から政府税制調査会会長。

【翁】成田空港は交通インフラであると同時に、日本の国際競争力を左右する重要な戦略的資産です。今後は民間投資を呼び込むことも大事になってくるでしょう。

【熊谷】同感です。現在、将来の千葉県経済を牽引していくことが期待される地域である成田空港周辺、柏の葉、幕張新都心、アクアライン着岸地周辺、北千葉道路沿線などに民間投資を呼び込むため、組織体制を強化し、戦略的な取り組みを進めているところです。

【翁】経済成長に必要な人と技術と資本の好循環をつくる条件が整いつつあるということですね。ぜひ、日本の国際競争力を支えるフロントランナーになってほしいと思います。産業と研究と人材が結びついた地にはグローバル企業や高度人材も集まりますから、日本の成長戦略を考える上でも、千葉県の取り組みには大きな意義があります。

【熊谷】おっしゃるとおりですね。本県の伸びしろをどう生かしていくか、まさに私たちの戦略が問われる部分です。

なぜ国際競争力の担い手に?

成田空港周辺や柏の葉エリアはこう変わる

【熊谷】今、戦略的に進めている事柄の一つとして、成田空港の「第2の開港プロジェクト」がもたらす好影響を周辺エリアに波及させるための取り組みが挙げられます。昨年には県とNAA(成田国際空港株式会社)で「NRT(ナリタ)エリアデザインセンター(NADC)」を立ち上げ、地域として目指すべきビジョンやゾーニングなどを示した「SORATO NRT(ソラト ナリタ) エアポートシティ構想」を策定しました。県や市町の垣根を超えて、民間企業の方々とも協働しながら進めており、先般には物流の効率化・高度化に向けた自動物流道路の実証実験も始まりました。

【翁】人手不足は日本の大きな課題ですから、自動物流の実現は重要ですね。競争力も一段引き上がりますし、物流の高度化はそれ自体が立地判断の重要なポイントになります。

【熊谷】空港を核とした産業拠点形成に向けた取り組みも進めています。地域未来投資促進法を活用して、国際物流拠点をつくるプロジェクトが2件進行中です。さらに、空港と親和性が高い航空宇宙や健康医療などの6分野を「集積を目指す産業」に位置づけ、その拠点整備や企業誘致にも注力しています。ただ、現状ではまだ産業用地が足りません。よりスピード感や計画性をもって用地を確保したいという思いから、場合によっては県が直接用地開発するという方針も打ち出しました。

【翁】将来の産業像を明確に描き、戦略的に企業を選定する。これは重要な取り組みですね。特定産業の集積は拠点としての強さにつながりますから、整合性のある施策だと思います。

【熊谷】羽田空港に拡張の余地がない以上、成田空港が果たす役割はますます大きくなっていくでしょう。このことを経済界や関係各所の方々に広く知っていただいて、日本の国際競争力強化のために一緒になって成田周辺を盛り上げていければと思っています。

【翁】まずは成田空港を、国際競争力を左右する産業インフラという位置づけに変えていくことが大事です。そのためにも、国には土地利用の規制緩和やインフラ整備、民間投資が自然に集まってくる環境づくりなどのサポートをしてほしいですね。

地域活性化は施設をつくるだけではなく、そこに人が集まってエコシステムが築かれるかどうかが鍵になりますから、そうした対策も進めてはどうでしょうか。例えば生活環境においては、海外人材が魅力を感じるような教育インフラなどを整備していくといいのではと思います。

【熊谷】柏の葉エリアでは、今まさにそうした取り組みが進んでいます。学術・研究機関などの集積によって産学連携が広がり、賃貸型ラボもできました。イノベーションを加速させる基盤が強固になったほか、令和5年に英国の名門校であるラグビー校が開校するなど、国際的な教育環境も充実してきました。また、さらに空気圧機器メーカーのSMCや再生医療製品を手がける米国セラレス社の立地が決まるとともに、日本製鋼所も柏の葉に研究所を新設すると表明しています。

【翁】複数の優良企業が拠点開設を決めたのは、事業・生活環境が整っていると判断したからこそでしょう。柏の葉が日本のイノベーションを牽引する拠点となることを期待しています。

【図表1】成田空港の拡張事業の概要

企業と共に成長する県へ! 千葉県の新たな挑戦