事例③ 30代で息子が社会復帰したケース
最後は、前の2事例よりも早くにお子さんが動き出したケースを紹介します。私が実際にカウンセリングを担当させていただいた、30代のひきこもりの息子、ゆうきさん(仮名)の事例です。
ゆうきさんは社会人経験がありましたが、馴染めずに退職し、実家に戻ってひきこもっていました。母親とのコミュニケーションはほぼ断絶状態。お母さんは「せっかく一度は社会に出たのに」「このまま8050問題になるのでは」という強い不安から、部屋を片付けるように言ったり、光熱費を家に入れるよう求めたりと、なんとか動き出させようと必死に関わっていました。
当時のゆうきさんは部屋に閉じこもりきり。お母さんは心配のあまり、毎朝仕事に出かける前にサンドイッチを作って置いていましたが、ゆうきさんは全く手を付けませんでした。
一方で「光熱費を入れろ」と要求しながら、一方で「心配だから」と食事を用意する。そんな母親のチグハグな対応への反抗だったのでしょうか。ゆうきさんは親の作ったものを拒否し、カップラーメンやコンビニ弁当ばかり食べていました。それを見て、お母さんは栄養バランスが崩れるとさらに不安になり、また干渉してしまう……という悪循環に陥っていたのです。
なぜ母親は息子を信じられるようになったのか
そこで、カウンセリングを通じて、お母さんはアプローチをガラリと変えました。息子を変えようとするのをやめ、「自分自身の人生」を充実させることに集中したのです。
まず向き合ったのは、自身の心の中にある「不安」でした。「このまま引きこもりが続いたらどうしよう」という恐怖。しかし、カウンセリングで心を整理していくうちに、お母さんは「その不安は“親の都合”であり、子どもの目線が欠けていた」ということに腹落ちしていきました。「私が安心したいから、息子を動かそうとしていたんだ」と気づいたのです。
そうして、自分の抱える不安を子どもに払拭してもらうのではなく、自分で理解し、寄り添えるようになっていきました。友達とランチに出かけたり、ずっとやりたかったガーデニングに勤しんだり。自分が心地よく過ごせる時間や場所を増やし、人生を充実させていくと、不思議なことに、自然と「息子は息子の人生を歩むだろう」と信じられるようになっていったのです。
お母さんが自分の人生を楽しみ、息子への干渉(手出し口出し)をやめると、驚くべき変化が起きました。心を閉ざしていたゆうきさんが部屋から出てきて、母親の作った食事を食べるようになったのです。やがて一人で釣りに出かけるようになり、外出が増えていきました。
そしてある日、ゆうきさんは自分からこう言いました。「また働こうと思う。家を出て一人暮らしをするよ」
家を出る前、ゆうきさんは「カニが好きなお母さん」のために、美味しいカニ料理のお店に連れて行ってくれたそうです。親が子どもをコントロールするのをやめ、自分の人生を生きた結果、子どももまた自分の人生を取り戻し、自立していったのです。



