大コケがあっても東宝は過去最高益

かつては、テレビ局製作による大量メディア露出で話題作りをするドラマの劇場版や、人気シリーズ続編などのハリウッド大作は50億円を超えるヒットが当たり前だったが、いまやそこに到達する作品こそ稀になり、10〜20億円でヒットのくくりに入る。大手以外の独立系映画会社の小規模な予算の作品は、アニメも実写もさらに厳しい。数億円いけばいいほうだろう。

そんな市場の1作として見れば『果てしなきスカーレット』もヒット作になる。『果てしなきスカーレット』は、東宝とソニー・ピクチャーズ エンタテインメントにより共同配給された。両社にとって想定外の事態となり、年間の収支計画への影響の懸念もあることだろう。

しかし、業界最大手の東宝は、10月の中間決算発表で、2026年2月期決算における2年ぶりの最高益見込みを発表している。その背景には、同作の不振を消化してあまりあるヒット作を、その時点ですでに生み出していることがある。

異例のヒット『鬼滅の刃』『国宝』

振り返ると、今年の東宝作品の興行はとにかく破格だった。それを象徴するのが『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗窩座再来』と『国宝』の2作だ。

前者は、コロナ禍に公開された前作『劇場版「鬼滅の刃」無限列車編』(407.5億円、2020年)が歴代最高興収をたたき出す前代未聞のメガヒットとなり、その後、テレビアニメ4本と、そのシリーズ前後をつないだ劇場版2本を挟んだ、5年ぶりのシリーズ新作劇場版。

もともと大ヒットへのポテンシャルは高く、世の中の期待値も高まっていた。前作並みのヒットは難しいのではないかと懸念する声も一部にはあったが、封切り直後からのロケットスタートでそんな空気を霧散させた。

すでに公開から150日以上が過ぎているが、現在も興収を伸ばしており、最終では390~400億円ほどになると見られる。近年稀に見る歴史的な興行になった。

後者の『国宝』は、歌舞伎を題材にした約3時間の超大作。公開後、口コミで動員を増やし続け、日を追うごとに右肩上がりで興収を伸ばす異例の興行になった。作品に宿った熱い志が、歌舞伎ファンや若い世代に広く伝播し、歌舞伎ブームを巻き起こす社会現象的な人気になっている。そして、海外でも評価され、アメリカのアカデミー賞に2部門で候補になるという快挙を果たした。

映画「国宝」のワンシーン
©吉田修一/朝日新聞出版 ©2025 映画「国宝」製作委員会
【図表】邦画歴代興収ベスト20
出典=興行通信社「歴代興収ベスト100」などより編集部作成。2025年12月14日現在。赤字の作品は公開中。緑のマーカーは東宝ではない配給作品。★印のほかはすべてアニメーション