大舅の婿いびりと、それに気づけない妻
「ばけばけ」がおもしろい。「姑による嫁いびり」はドラマの定番だが、連続テレビ小説「ばけばけ」序盤では、「大舅による婿いびり」&「それに気づけない嫁」が描かれた。
主人公・トキ(髙石あかり)の松野家に、銀二郎(寛一郎)が婿入りする。だが、それは思い描いた新婚生活とは違っていた。
時代は明治。没落する武家の中でも、いち早くざんぎり頭に切り替えて、ビジネスに乗り出し、世をうまく渡り歩く者もいれば、トキの祖父・勘右衛門(小日向文世)のように、武士のプライドを捨てることはできぬ、と髷を結ったままの男もいた。その間で宙ぶらりんに揺れながら世間に揉まれる、トキの父・司之介(岡部たかし)のような、娘可愛さだけは誰にも負けない人間もいる。
頑張っても残らない現金、認められない努力
貧窮の中、次男の自分に運は回ってこないと見定めて、松野家に婿入りした銀二郎だったが、「強制される武家らしさ」「生活費獲得のプレッシャー」「パワハラまがいの大舅(じじ様)の鍛錬」によって、次第に追い詰められていく。
暇さえあれば、じじ様は剣の稽古をつけてくる。
「腰が入っとらん!」
「格の低さが表れちょる!」
「そんなことで松野家の当主は務まらん!」
銀二郎はいちいち生家の身分の低さをいわれるが、実はじじ様も偉そうなことをいえる立場ではない。松野家には莫大な借金があった。それを返すためにトキも必死に工場で反物を織るが、経営主の名家・雨清水家も時代の流れには抗えず、とうとう倒産の憂き目に遭う。
「稼がなければ妻が遊女に」という焦り
そのため、ますます「婿殿」の肩に重いプレッシャーがのしかかる。いくら稼いでも金は返済に流れていく。よそ者の銀二郎には、松野家の借金の総額すら知らされない。
借金取りが「返せなければトキを遊郭に連れていく」と宣言して帰ったあと、銀次郎はため息まじりに「もっと稼がねばなりませんね……」と深刻な顔で漏らすが、どこまでものんきな舅は「よういうた! 気に入ったぞ」と褒める。「ハァ……、これまでは気に入っていなかったということですね」と返事をするくらい、銀二郎はすでに自尊心を奪われてしまっていた。