「好き」という気持ちが成長を加速させる

6分×4クオーター制のミニバスは、選手たちに出場機会を与えるために1人3クオーター(18分)までしか出場できない。3クオーター出る選手は「ベストメンバー」と呼ばれるが、河村は4年生からチームの司令塔であるポイントガードのポジションでそこに入っていた。

4年生のベストメンバーは珍しい。河村が最上級生になったときに全国制覇をと目論んだ森本は、ときにミスがあっても経験を積ませた。

「勇輝が高校時代に毎日シュート600本イン(成功)させたという話が以前話題になりましたが、小学生のころからやっていました。1000本入れてきたと聞いた日もあります。あの子の一番の才能は努力です」と語る。その努力を支えたのは、森本らに育まれた「バスケが心底好き」というマインドだろう。だから、ああ今日は体がだるいなと感じても、コートに立ちシュートを打ち続けたのだ。

スランプになっても心底好きなら打開できる

河村が6年生になったとき、森本は初の日本一を成し遂げた。

島沢優子『叱らない時代の指導術 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践』(NHK出版新書)
島沢優子『叱らない時代の指導術 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践』(NHK出版新書)

「僕が指導スタイルを変えた後に彼が来たのは、本当にタイムリーだったと思います。小学校の教員になって本当によかった」

森本の指導に影響を与えた「主体的学び」は、河村が小学5年生になった2012年8月に文部科学省中央教育審議会の答申に「アクティブラーニング」という表現で初めて記載された。2020年度から小学校、2021年度から中学校、2022年度から高校で実施された新しい学習指導要領の総則には「主体的・対話的で深い学び」という言葉が登場している。

この主体的・対話的学びがいかほどに日本の教育に根付いているかはわからない。しかし、NBAで仲間たちと英語で会話し、アメリカメディアの取材に堂々と答える河村の姿を眺めていると、主体的に動くことで自らの人生を切り拓いているさまが見てとれる。

「好き」の破壊力は最強だ。故障や不遇が続いても、その競技が心底好きなら必ず困難に向き合える。河村はこれからも、森本を「いいほうに裏切ってくれる」だろう。教え子が想定外の活躍を見せることこそが、指導者の価値ではないだろうか。