選手と対等になることでエネルギーが出る

「早川が部員たちに説明したりして、いたるところで助けてくれた。チームをつくっていく仲間として彼と一緒にやれたのは大きかった」

島沢優子『叱らない時代の指導術 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践』(NHK出版新書)
島沢優子『叱らない時代の指導術 主体性を伸ばすスポーツ現場の実践』(NHK出版新書)

筑波大蹴球部は1年で1部に復帰した。小井土が選手と対等な関係性を結ぶことで、チームにエネルギーが生まれた。指導者として変われたからこそ、彼らの成長を邪魔しないで済んだ。これは三笘に対しても言えることだろう。

昇格を決めた日。試合に勝利した後、早川はユニフォームのまま応援スタンドに歩み寄った。

「筑波大は、日本の大学サッカーを牽引する存在になります」

澄み渡った空に響く声、その後ろ姿は、小井土の目に焼き付いている。胸の中で「早川に救われたなあ」とつぶやいた。

ところが2016年4月、アルビレックス新潟で順調に試合に出ていた早川が急性白血病を発症。同年のインカレ(全日本大学選手権)は「早川史哉と共に」と書いた横断幕を掲げて戦い優勝した。そして2019年10月5日。早川はJ2鹿児島ユナイテッドFC戦で1287日ぶりの先発復帰を遂げた。小井土は朗報を聞き、体中にエネルギーが湧いてくるのを感じた。

「早川のやつ、卒業しても、僕に力をくれました」

筑波大蹴球部が選手の自主性で伸びた理由

それにしても、筑波大蹴球部のエネルギーは凄まじい。関東大学リーグで準優勝した2024年度のフィロソフィーは「よい選手、よいチーム、よい指導者」「強くあり続ける、高みを目指し続ける」。バリューは「現状維持は衰退」。そしてビジョンは「大学サッカーを牽引し続ける」。ここに200人の部員全員がフォーカスする。学生たちが電話営業をしてスポンサーを集め、グラウンドはクラウドファンディングによる資金も加えて改修した。

このような活力の源を探ると、蹴球部の大きな変化に気づかされた。

2025年5月現在47歳の小井土が学生だったころは部員数140〜160人中、体育専門学群の学生が大半を占めていた。他学群の学生は多くても毎年全学年で3人程度だった。ところが十数年前から他学群の学生が徐々に増え始め、小井土が着任した2014年度で3割に。2024年度は部員187人中、90人が他学群と約半数を占めた。

小井土によると「筑波大でサッカーをしたい、サッカーで成長したいという学生が入ってくる」。体育専門学群以外の、実技入試がない学群から蹴球部に入ってくるのだ。