「頑張りたいと思える環境を用意しているか」

同級生で4年時にキャプテンになった山川やまかわ哲史てつし(現ヴィッセル神戸)がいつも付き合った。次に練習するBチームにグラウンドを譲らなくてはならないので20分程度ではあるが、小井土が「もう切り上げろ」と止めても、三笘は山川を抜きにかかるのをやめなかった。

「本当にね、我を忘れてやるわけです。それもある意味必要なんですね。それが一番エネルギーになる。そのエネルギーがチームに宿ったときに勝てる。僕ら指導者がやれよ、頑張れと、ある意味あおってやらせるのは簡単だと思います。でも、選手が頑張りたいと思える環境を用意しているかどうか。そこが重要なんです」

言葉ではなく、頑張りたくなる環境をつくる。小井土によると「頑張る」には2種類あるという。

ひとつは「頑張ったらすごく上手くなったから、もっと頑張りたいという、報酬を得た結果湧いてくる」意欲。もうひとつは「俺ここで頑張らないと、この先ねえんだっていう危機感から生まれる」必死さとも言えるもの。その両方を持った者が最も伸びる。

それなのに、これをやれ、あれを辛抱強くやれと、私たち大人は指示しがちだ。そうすると子どもは自分から必死に頑張る機会を得られない。つまり、与えることで、大事なものを奪ってしまうのだ。

目をつり上げて山川に挑みかかる背中を見守りながら、小井土は「この子は何もしないほうが伸びる」と確信に近いものを感じていた。

2024年の天皇杯、対柏レイソル戦で試合を見守る筑波大・小井土監督、2024年7月10日
写真=共同通信社
2024年の天皇杯、対柏レイソル戦で試合を見守る筑波大・小井土監督、2024年7月10日

2014年、母校の蹴球部ヘッドコーチに就任

小井土は筑波大大学院に通いながらJリーグの水戸ホーリーホックで1年間プレー。6試合に出場した。現役引退後は筑波大の先輩にあたる長谷川健太監督のもとで清水エスパルスのアシスタントコーチを務めるなど指導経験を積んだ。2014年、筑波大学蹴球部ヘッドコーチに。シーズン途中から肩書は暫定監督に替わった。

当時は部員150人。部員が多い割に、指導にあたるのは小井土と2名の大学院生コーチのみ。Aチーム以外は4年生が指揮を執る状況で組織としては脆弱だった。

「選手や大学院生に小井土は何をするんだろうと見られている。そう意識して常に張り詰めていた。1年目は、自分が引っ張っていかなければとまさに気負っていました」

部には小井土の在籍以前から自主自律の伝統が貫かれている。何か決める際は都度学生の意見を仰いだものの「なるほどそういうことがあるか」と口では同調しながら、「自分のなかにある答えと(学生が)言っていることをうまくすり合わせていく感じだった」と述懐する。選手やチームを自分の枠にはめようとしていた。