社長を内示され、「全国キャラバン」を始めた。まず、5月後半から3カ月かけて、全国16の支店を回る。支店にいる全員を集め、自己紹介をした後、抱負を語る。終わったら、どこでも、支店長以下約20人の管理職と対話と懇親を兼ねた会を開く。8月後半からは、全国の7工場と物流センターを巡った。

本社内よりも支店と工場を真っ先に回ったのは、「まず、製品を売ってくれている人に敬意を表したい。次に、製品をつくってくれている人たちだ。そういう人たちの汗があって、研究開発など将来への布石が打てる」と考えるからだ。それが「メーカーの社長」としてあるべき姿だと、心から思っている。

キャラバンは、国内3カ所にある研究開発センター、子会社、そして本社内と続き、就任2年目も支店巡回を重ねた。海外に出張したら、海外子会社でも「タウンホールミーティング」と称し、抱負を語る。

社内向けのネットに、キャラバンについて何度か書いてきた。その1つに「意志(Will)はお金では買えない」と題し、こう記した。

「いまやほとんどのもの、優れた社員、顧客、ブランド、さらには会社に至るまで、お金で買えるようになりました。唯一買えないもの、それは意志(Will)です。この会社を、こんな会社にしたいという意志(Will)だけは、お金では買えません。それが経営の本質であるというのが、私の結論です。みなさん一人ひとりが、単に与えられた作業・数字をこなすというのではなく、それぞれの持ち場で『自分はこうしたい』という明確な意志を持って、臨んでほしいと思います」

たまに、大阪生まれ、大阪育ちであることを意識する。真剣に話し出すと、大阪弁が出る。佐治敬三流の「やってみなはれ」の精神も、口にする。「何をしたいのか」「Willを大切に」と言うのは、「やってみなはれ」と同じことを、言葉を替えて語っているのかもしれない。

要は「不昧己心」だ。

(聞き手=街風隆雄 撮影=門間新弥)
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