ビジネスマンに必要なユーモアとは何だろう。商談中に爆笑をしてもらう必要はないが、相手との距離を縮めたり、よい空気をつくりたい。心をくすぐる程よいスパイス加減とは。各界の先達たちの言葉からそのあり様を探った。
アップル創業者 
スティーブ・ジョブズ
(AFLO=写真)

アップル創業者、スティーブ・ジョブズのユーモアからはひたむきさに加えて、アメリカ人らしい明るさが伝わってくる。『驚異のプレゼン』という本に載っているエピソードだが、彼がプレゼンしている最中、手に持った発信機が壊れ、スライドがすすまなくなった。普通の経営者なら焦ったり、部下を小声で叱りつけるところだが、ジョブズは高校時代のいたずらについて話し始めた。

「スティーブ・ウォズニアクと僕とでテレビの妨害機っていうのを作ったことがあるんだ。小さな発信機でテレビが映らなくなる妨害電波を出す。(中略)みんなが『スタートレック』とか見てるわけだ。そのテレビをウォズが妨害する。そしたら調整で直そうとするヤツがいるわけさ。そいつが足を上げたとたんに妨害をやめる。そいつが動くとまた妨害する。そんなことを5分もやっていると、こんな風になったりするんだ」

「こんな風」とはジョブズ本人がプレゼンの最中に足を上げたところでフリーズしたスライド画像のことである。普通の会話のなかで話すのでなく、機械の故障という、切羽詰まった状況のなかで、面白い話をするわけだから、余裕がないとできないことだ。

グーグルの会長、エリック・シュミットの場合は大勢の経営者が参加するダボスの世界経済フォーラム(05年)でユーモアのセンスを発揮した。

ニューヨーク・タイムズの発行人、アーサー・ザルツバーガー・ジュニアが「(急成長する)グーグルはニューヨーク・タイムズから売り上げや広告主やコンテンツを盗んでいる」と聴衆の前で、シュミットを攻撃した。シュミットはすぐに立ち上がった。会場には緊張が走る。聴衆は反論が始まるのかと固唾をのんだら、シュミットは、「自分はガーデンパーティに紛れ込んだスカンクみたいなものですよ」と言った後、ザルツバーガーに対して「我々が力を合わせればすばらしい結果が生まれるのに」と呼びかけた。

シュミットが「ガーデンパーティ」と評したのは新聞、雑誌、テレビなどの旧メディアである。そして、グーグルのことはスカンクと自嘲気味に表現したものだから、ザルツバーガーは気合を外されたのだ。このように、ユーモアには緊張をほぐし、相手を和ませる役割がある。