実業家の堀江貴文さんが出資する宇宙スタートアップ「インターステラテクノロジズ」は、民間企業で初めて宇宙空間までロケットを飛ばすことに成功した。事業を始めて10年目の2023年には、文部科学省からの補助も取り付けている。なぜ堀江さんは宇宙事業のためにここまでやるのか。ノンフィクション作家の野地秩嘉さんが聞いた――。(前編/全2回)

帯広から車で小1時間、広がる宇宙基地

いつでもどこでもホリエモンと呼ばれてしまう堀江貴文がファウンダーを務めるインターステラテクノロジズ(IST)。ロケットの開発、製造、打ち上げサービスを行う会社だ。事業開始は2013年で、従業員は150人(2024年4月)。

本社があるのは北海道の大樹町だ。帯広市から南に35キロの場所で、車で40分ほど走るとそこに着く。ただし、冬は路面に雪があったり、凍結したりするので、50分から1時間はかかる。

大樹町の主要産業は農業と酪農だが、航空宇宙産業の拠点でもある。同町は1980年代、「航空宇宙産業基地」の候補地とされた。以来、町と参加企業が「宇宙のまちづくり」を進めている。町には参加した企業のほか、ロケットの宇宙港、「北海道スペースポート(HOSPO)」がある。

ISTの本社、工場は広い畑のなかに建っていた。大学の体育館を少し大きくしたくらいの建屋だ。黒い壁にオレンジ色で社名のイニシャルレター(頭文字)ISTが浮かび上がる。あたりを払うという威容を感じる。

実業家の堀江貴文さんが出資するインターステラテクノロジズの本社
撮影=プレジデントオンライン編集部
実業家の堀江貴文さんが出資するインターステラテクノロジズの本社=3月21日、北海道大樹町

「MOMO」の次に打ち上げを目指す「ZERO」

2019年の5月、ISTの本社から車で十数分走った海沿いにある射場から自社製造の小型観測ロケット「MOMO(モモ)」3号機を打ち上げた。同型ロケットの全長は10.1メートルで直径は50センチ。全備重量は1220キログラムだ。

そしてMOMO3号機は国内の民間企業が単独で開発したロケットとしては初めて高度100キロメートルの宇宙空間に到達した。

現在、同社が開発を進めているロケットZERO(ゼロ)は人工衛星を打ち上げるためのものだ。同機が搭載する人工衛星は地球表面から高度2000km以下とされる地球低軌道(LEO=low Earth orbit)を周回し、地上にデータを送ってくる。人工衛星を載せるので、ZEROはMOMO型よりも格段に大きい。全長が32メートルで直径は2.3メートル。全備重量は71トン。

例えば新幹線の車両の長さは25メートルだ。ZEROを打ち上げるとは、新幹線車両にロケットエンジンを搭載し、宇宙空間へ発射するようなもの。ISTの百数十人は途方もないことに挑戦している。その推進力となっているのがファウンダー(創業者)のホリエモンだ。

なぜ、こんなに大きなものを打ち上げるために彼は奔走しているのか。