ウォール街が隆盛を極めた00年代前半には、米国流がベストのはずだ、という認識が流布していた。米大企業の最高経営責任者(CEO)は、一般社員の350~400倍の報酬をもらっている。つまり、1日で、一般社員の年収を稼ぐわけだ。

金融危機を経て、ウォール街でも、共通善への貢献度に見合わないゆきすぎた巨額報酬に、何かしらの制限を設けるべきだとの議論が起きている。だが、危機の記憶が薄れるにつれ、また元のパターンに戻る危険がある。

一方、日本の報酬慣行は、格差が少ない点で、米国方式より優れたものだと思う。米国は、バンカーやヘッジファンドマネジャーなどが享受する極端な報酬格差を是正することで、より健全な経済と社会を生み出すことができるはずだ。金融危機が、米国の報酬モデルに大きな疑問の楔を打ち込むことを願っている。

こうした問題については、人によって考えも様々だろう。これは一例にすぎない。繰り返しになるが、重要なことは、こうした問題を議論することだ。読者の1人ひとりが深い思考を試みることが、よりよい社会をつくるための「共通善」を育むことになるのだ。

※すべて雑誌掲載当時

ハーバード大学教授 マイケル・サンデル
1953年生まれ。ハーバード大学教授。専門は政治哲学。同大での講義「Justice(正義)」を収録したテレビ番組「ハーバード白熱教室」は世界各国で放送され、話題を集めた。著書に『これからの「正義」の話をしよう』(早川書房)など。
(肥田美佐子=取材・構成 Chensiyuan(Sanders Theatre Harvard University)=撮影)
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