目の前の人に対して何ができるか

私は家族、友人、社内の人間、仕事仲間など、人との付き合い方をすべて同じにするよう心がけています。その人の話をよく聞き、相手の気持ちを考え、相手の立場に立って、場合に応じて適切なアドバイスをしてあげる。「目の前にいるこの人のために、私は何ができるか」をいつも考えているのです。

当然、相手はとても喜んでくれます。人とうまく付き合うための知恵ですが、これを50代になって初めて自覚するようになりました。

「最近の若い人は付き合いが悪い。お酒に誘ってもなかなか行くと言ってくれない」とぼやく友人がいます。私は若い人を飲みに誘って断られたことがありません。そこで、こう言いました。「君は部下と飲みに行って、自分の話ばかりしていないか。それでは誰も次はついてこない。部下の話を聞き、適切なアドバイスをする。勘定は全部あんた持ち。そうすれば誰でもついてくるよ」と。

上司に対しても同じことが言えます。東レ時代、同期のなかで最初に取締役になったときは、全会一致で「佐々木を取締役にしよう」と決まったらしい。上司が私を引き上げてくれたのです。振り返ると私は、上司のためには何をすべきかをいつも考えていました。

ひとつ明かすと、直属の上司だけでなく、2段上の上司も気にかけるようにしていました。たまたま同じエレベーターに乗り合わせたり、廊下ですれ違ったりしたとき、「本部長の昨日のスピーチ、すばらしかったです」と声をかけます。何回かそうしていると顔を覚えてくれますから、「迷っていることがあるのですが、5分間だけ相談に乗っていただけませんか」と言うと、たいてい「いいよ」と頷いてくれる。部屋に招かれたら、椅子には座りません。立ったまま手短に報告する。忙しい人には30分というと難しいけれど5分ならもらえるのです。

おまけに2段上の上司は自分の部下、つまり私にとっての直属上司が、部下からどう見られているかに関心があるので、「先日、こういうことがありまして」と情報を入れると、よく相好を崩して喜んでくれました。

目の前の人に対して、何ができるのか。自分にとって一見無駄と思えることでも、時間を惜しまずに行動に移してみる。それは回りまわって必ず自分にとってプラスになります。

※すべて雑誌掲載当時

東レ経営研究所 特別顧問
佐々木常夫

1944年生まれ。東京大学経済学部卒業後、東レ入社。2001年、同期トップで取締役に。03年より東レ経営研究所社長。10年より現職。働き方に関する著書はベストセラーになっている。
(荻野進介=構成 向井 渉=撮影)
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