有能な秘書を取材したとき、信用できない人の特徴として、「企業トップや有力な人との親密な関係を強調する。たとえば『おたくの社長とは古い付き合いでね』など」という特徴があげられたのも、「こちこちマインドセット」のもち主の心理特性と合致する。

一方『神様の女房』を読むと、松下むめのが生涯努力の人であったとわかる。「『練習したらみな同じ。何でもできるんや。できないことはないんや』それは幼い頃からの、むめのの口癖だった」という。この口癖こそ「しなやかなマインドセット」そのものだ。

「しなやかなマインドセット」のもち主は、他人の肩書ではなく、「懸命に努力をしている行動」をじっと見ている。努力をすれば人間が成長することを信じているので、当然、自分と周囲の人の立ち居振る舞いに厳しくなる。むめのが松下電器の社員や住み込みのお手伝いさんには厳しかったのも、「人間は努力をすれば成長する」ことを信じていたからだろう。

筆者は「信用できない人」の典型のような人と仕事をしたことがあるが、その人は自分にも他人にも甘かった。自分が損をしない限りは周囲の人間が何をしても知らんふりだった。もしあなたの上司が部下に甘いなら、あまり信用しないほうがよい。逆にビジネスパーソンとして正しい行動から外れたことをしたとき、心から叱責してくれる上司は「しなやかなマインドセット」をもった信頼できる上司だといえよう。

松下むめのが、初めて会う人にも温かく平等に接したのは、彼女の原体験にあると高橋さんは言う。むめのの生家は淡路島にあり、四国のお遍路さんが往来する街道沿いに位置していた。むめのにとってお遍路さんは見ず知らずの他人である。社会的な地位や財産の多寡に関係なく、分け隔てなく、温かく他人を迎えるという教育をむめのは徹底的に受けた。そのことがむめのにどのような影響を与えたのだろう。