有能な秘書による「信用してはいけない人の見分け方」の取材を進めるうちに、詐欺師やペテン師にも平等に接し、まったく困らなかったという人物の存在を知る。松下幸之助の妻・むめのである。その人間観と成功との因果関係を探る。

日本一の金持ちに群がる詐欺師をいかに見分けたのか

前回掲載した「有能な秘書が見抜く『信用してはいけない人』の特徴」(http://president.jp/articles/-/6937)の取材で、筆者はパナソニックの創業者・松下幸之助夫妻の秘書(執事)として活躍した高橋誠之助さんを訪ねた。幸之助を陰で支えた妻・松下むめのは優しさと厳しさを兼ね備えた一角の人物で、その様子は高橋さんの著書『神様の女房』にも描かれている。当時の幸之助は日本一の大金持ちと言っても過言ではない。さぞかし胡散臭い人がお金を目当てに群がってきたことだろう。松下むめのは一体どうやって信用できる人と、信用できない人を見分けていたのだろうか?

しかし、その問いかけに対する高橋さんの答えは意外なものだった。

「見分ける方法なんぞなかったです。むめのさんはどんな人も同じように、包み込むような温かさをもって接しました。おそらく詐欺師もいたでしょう。しかしむめのさんは、こちらが真心で接すると、必ず相手がそれをわかってくれるという姿勢を崩さなかった。性善説をとっておられたんですね。結果、会った人がむめのさんに魅せられた。だからどんな人に会わせても、執事として困ったことはなかったです」

むめのは相手によってまったく態度を変えなかったというのだ。

有能な秘書たちを取材したとき、相手によって態度を変える人は信用できないという意見が多かった。たとえば、訪問客が自分の部下を連れてきたとして、訪問先には平身低頭で愛想笑いをふりまいているが、自分の部下には横柄な態度をとるような人を信用できないという。筆者の個人的体験に照らし合わせても妥当性の高い観察だ。

ここで2つの疑問が生じる。なぜ相手によって態度を変える人は信用できないのだろうか? そして、信用できない人が、相手によって態度を変える心理的な理由は何なのだろうか?