従業員が「働きがい」「働きやすさ」「働きたい」を感じるためには、企業内の人材マネジメントはどうあるべきか。それには上司のリーダーシップと、人事の仕組みの両方が重要であると、筆者は最新の調査結果から説き明かす。

いかにしてハイパフォーマーを自社に留めるか

近頃、「働きがいのある会社」という考え方が話題になってきている。企業側からすれば、企業というものが人で成り立っている以上、働きがいを感じている人の多い企業のほうが価値が高い。

一方、働く人もそのほうが幸せだろう。多くの人が企業や組織という場で生活の糧を得ながら人生をおくる、というのが現実であり、働く場で働きがいを感じられれば、そうでないよりも幸せである。

また、働きがいと同様に今、関心が高まっている概念に「働きやすさ」がある。特にワークライフバランスや長時間労働、職場でのメンタル症状になる従業員が発生するなどが話題になるにしたがって、多くの企業が関心を持っているようだ。

さらに、その企業で「働きたい」かどうか、という感覚もあるだろう。その企業で働き続けたいと思うかどうか。すでに雇用されている従業員であれば、雇用を継続することへの前向きな態度ということになるだろうし、また採用前の人材から見れば、文字通り、その企業に雇用されたいかどうか、という感覚ともいえる。

いうなれば、「働きがい」や「働きやすさ」「働きたい」を評価するということは、ステークホルダーとしての働く人の視点に立った企業評価だともいえる。株主が企業を株主価値という視点から評価し、投資先を選択するように、働く人が企業を評価し、自分の知的資本を投下する。「株主価値」というものが、企業の株主に対して持つ価値だとすれば、働きがいなどの要因は従業員に対して持つ価値、「従業員価値」ともいえるのである。

では、なぜこうした従業員視点での評価基準をつくることが重要になってきたのだろうか。

これまでの日本で、働く人は働く場所をあまり自由に選べなかった。株式市場の流動化の速度に比べて労働市場の流動化は遅れていた。でも、ここ暫く労働市場全体で見ると、かなり流動化は進んできた。その結果、働く人にとって、いわば、働きたい度が開示されることは、自らにとって最も適切な働く場所を選択するうえでの重要な情報となる。

特に労働市場の流動化が進むなかで、優秀人材(ハイパフォーマー)の流動性が高まってきた。その背景には、人と組織の関係が、より“短期的”で“契約的”なものになってきたこともある。そのような状況のなかで、競争力維持のために、ハイパフォーマーを留めておくために様々なリテンション施策を実行することが重要になってきたのである。