実戦経験の積み重ねが重要

若手社員のニーズは一人一人違うことも意識すべきだ。昔はポストと給料がリンクしていたので、多くのビジネスマンがポストを目標に働いていた。しかし、現在は管理職になっても収入減になる恐れがあり、ポストや給料がモチベーションとして機能しづらい。若手社員は何に喜びを見いだして働いているのか。それを個別に把握したうえで指導法を考えるべきだろう。

部下が求めるものがわかっても、それを自分が持っていないケースがある。例えば自分が誰からも自然に好かれるキャラクターだった場合、営業で相手に気に入られるノウハウを教えるのは、かえって難しい。その場合は、ほかの人の力を借りればいい。努力して相手に好かれる術を身につけた人をコーチにつけるのだ。責任を放棄しているようで気が引けるかもしれないが、何でも教えられる振りをして指導を続けるより建設的だ。

具体的な指導法でいえば、とにかく実戦の経験を積ませることを重視したい。アメリカの軍隊では、「死者の出ない訓練は効果がない」と言われている。もちろん誰も死なずに済むならそれが一番だが、死者が出るほどの厳しい訓練をしないと、いざ実戦になったとき余計に多くの死者が出るという。アメリカでも賛否両論あるようだが、私はこの話を聞いて納得した。人は緊張感のある場面を経験するほど成長できるからだ。

これはビジネスにも通じるものがある。もちろん病気になるまで追いこめという意味ではない。とにかく現場経験を積ませて、叱るべきときにはきちんと叱る。とくに自律的なプロフェッショナルを育てたい場合、これに勝る育成法はない。

若手社員が実戦で失敗を重ねれば、上司がその尻拭いに奔走することもある。ただ、一時的に負担が増えても、それによって若手社員が成長すれば、のちのち負担は軽くなる。育成を長期という時間軸で考えれば、こうした発想も湧いてくるはずだ。

最近は、パワハラを警戒してか、会社として厳しい指導を禁止しているところもあるらしい。管理職は社の方針に従わざるをえないが、この場合はお客さんに叱ってもらえばいい。私もコンサル時代、懇意の経済紙記者のもとにたぶん怒られるだろうなと思いながらも、若手を一人で向かわせたことがある。案の定、「ビジネスの常識を知らない」と怒られて帰ってきた。私が直接叱るより、ずっと骨身に染みたようである。社員は上司に誉められたり、怒られたりするより、顧客に誉めてもらったり、怒られたりするほうがよほど勉強になって成長する。覚えておいて損はないテクニックだ。(図3)

(構成=村上 敬)
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