喪主の長女は「この写真を遺影にするのは母の希望でした。私たち子どもを育てる幸せをかみ締めていた時期の写真だからだそうです」と語った。2万人の葬儀に立ち会ったフリーの葬祭コーディネーターが語る、愛があふれる葬儀の光景とは――。

※本稿は、安部由美子『もしも今日、あなたの大切な人が亡くなったとしたら』(青春出版社)の一部を再編集したものです。

葬儀会場
写真=iStock.com/akiyoko
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「斎場を間違えたかもしれない!」と一瞬不安に

13時出棺の霊柩車れいきゅうしゃを見送り、車で帰途についているところに司会の依頼の電話が入りました。

県をまたいだ先の、車で2時間はかかる葬儀社からの依頼だったこともあり、少々早めではありましたが、そのまま向かうことにしました。故人のお名前は伊藤キリさま、80歳の女性です。本日が通夜法要になります。

斎場に入り、まずは遺影写真にごあいさつをしようと見上げたとき、「斎場を間違えたかもしれない!」という不安が頭をよぎりました。その理由は、遺影がどうみても40歳くらいにしか見えない写真だったからです。確認のために担当者のところへと急ぎました。

「驚きましたよね? 僕たちも同じです」。焦っている私の姿を見て、葬儀社の皆さんは穏やかにほほ笑んでいます。「遺影の件はご遺族との打ち合わせで聞いてください」とのこと。私は、斎場を間違っていなかったことに安堵あんどして、親族控え室に向かい、打ち合わせをすることにしました。

「驚かれたでしょう?」。そう話しかけてくださったのは、故人の長女にあたる優子さま。笑みを含んだ表情で私を迎え入れてくださいます。優子さまのほかには、そのお兄さまと妹さまもいらっしゃいました。高校生2人、小学生5人、幼稚園生3人と合計10人のお孫さんも出迎えてくれました。

控え室は、ご親族だけですでににぎやかな状態。お祖母さまを見送る悲しい場ではありながら、どこかしら温かな雰囲気が広がります。お孫さんたちも、いとこ同士の触れ合いを楽しんでいるように見えました。