「大麻は古代日本が生み育ててきた」という世界観

大麻解禁という「奇行」が週刊誌で注目されたのも、昭恵夫人いわく「大麻は古代日本が生み育ててきたナチュラルなもの」という世界観が根底にある。大麻は覚醒剤と違って自然の野草である。汚染されていない「土」から育った大麻草には、神聖無垢なる古代日本から連綿とつながる精神性が宿る。だから昭恵夫人は、大麻解禁の理由を次のように語る。

〈大麻はただの植物ではなくて、たぶんすごく高いエネルギーを持っていると私は思うんです〉
〈何千年もの間、日本人の衣食住と精神性に大きくかかわってきた大麻の文化を取り戻したい……。私自身も大麻栽培の免許を取ろうかと考えたほどです〉(「週刊SPA!」2015年12月15日号)

一読しただけでは昭恵夫人が何を言っているのかよく分からないが、ここには国粋主義への明瞭な接続がある。大麻は、汚染されていない神聖な土壌から育成される「すごく高いエネルギーを持っている」特別な植物である。

汚染されていない「土」から生育される特別な植物

そしてその「すごく高いエネルギー」は、「何千年もの間、日本人の衣食住と精神性」に寄与してきた。従って現在、農薬や輸入種子によって汚染されている日本の「土」を浄化し、そこに無垢なる「土」を取り戻すことができれば、日本人の精神性は「外来のものに汚染される前」つまり、神の御代にまで遡ることができる──とかいつまんで言えばこういうことである。だから昭恵夫人は、汚染されていない「土」から生育される特別な植物=大麻へ、異様なまでにこだわったのだ。

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昭恵夫人の言う「土」を突き詰めれば突き詰めるほど、その先にあるのは西欧近代や欧米列強に汚染されていない「神国日本」への回帰であり、国粋主義なのである。東京工業大教授の中島岳志は、安倍昭恵の「土」へのこだわりと国粋主義への接続を次のようにとらえる。

〈この傾向は、戦前期の超国家主義者の性質と似ている。人生の煩悶を抱え、自然回帰を志向した農本主義者たちが、次第に日本精神を礼賛し、国体論による世界の統合を志向していったことはよく知られる。かつてナチス・ドイツも有機農業を称揚し、独自のエコロジー思想を打ち出した。ヒトラーは「化学肥料がドイツの土壌を破壊する」と訴え、純粋な民族性と国土のつながりを強調した。(中略)この両者の一体化は、危険な超国家主義を生み出しかねない〉(中日新聞「ナチュラルとナショナル 日本主義に傾く危うさ」2017年3月28日)

「汚染される前の日本」という桃源郷

「土」への執着は単なる精神主義ではない。そこには、「汚染される前の日本を、取り戻す」というありもしない、幻想の上に立脚した神聖な天皇の国が存在するのである。

いみじくも第二次安倍政権(自民党)の2012年における選挙スローガンは、「日本を、取り戻す。」だった。

言わずもがなその意味するところは「民主党政権から日本を取り戻す」であったが、昭恵夫人が取り戻すのは同じ日本は日本でも、「汚染される前の日本」という、ありもしない桃源郷なのである。「家庭内野党」などという形容は誤りで、明恵夫人は夫よりもはるかに強烈な右翼思想の持ち主なのかもしれない。(文中敬称略)