深刻な「いきなり管理職」問題とは

関係者の話によると、業種にもよるが、10人規模の事業所で1人か2人がメンタル不調に陥るケースが見られるという。中国の赴任先各地で日本人の自殺者が出ていることは、もはや駐在員の間では共通認識となっている。

そこまで彼らに重い負担を強いていても、本社側がその実情を把握するのは難しい。「赴任してみなければ絶対わからない」という中国社会の高ストレス度の背景には何があるのか。

03年から06年まで外務省医務官として北京に在勤した勝田吉彰近畿医療福祉大学教授は「日本社会に適応しやすい人間ほど、メンタルでつまずきやすい」という。そして中国特有のストレス要因として以下の3つを挙げる。

(1)気候・風土・環境に起因するもの
  ――乾燥した気候、黄砂、大気汚染、社会インフラの遅れ、食の不安。

(2)中国社会に起因するもの
  ――人治主義によるビジネスルール上の弊害、接待に不可欠な宴会の多さ、地域格差、治安(盗難やハニートラップなど)。

(3)日本社会に起因するもの
  ――日本人気質(完璧志向、減点主義、ムラ社会)、「いきなり管理職」問題。

このうち日本社会から持ち込まれた要因として、真面目で几帳面な日本人気質が中国社会に合わないのは誰もが指摘するところ。ここでいう「いきなり管理職」問題とは、他国に比べ駐在初級者が多く、日本で部下を持ったことのない若手社員をいきなり赴任させ、心労のためメンタル不調を起こすこと。誰を赴任させるかは、中国ビジネスの成否の鍵を握るだけに、本来慎重になるべきだが、経営陣の不用意な判断で不幸な結果に至るケースは多い。