看護師、保育士、介護福祉士の女性客が目立つ

客層の中心は10代から30代の女性。特に看護師や保育士、介護福祉士など、対人サービスを強いられ、精神的な負荷が大きい職業の人が目立つという。「僕たちはテーマパークのアトラクションのようなもの。楽しくなり、一緒に騒いでいるうちに、鬱憤が晴れたという人が多いんです」(こゆきさん)。

世のイケメン事情に詳しいラジオパーソナリティーの沖直実さんは、女性が女装男子を好む理由について「男性なのに、女性との距離が最初から近く、すぐ女同士のように打ち解けられるところ」と説く。時々不意に出る男らしさとのギャップに女性は萌えてしまうのだそうだ。確かに格好を女性に寄せるだけで、心理的距離が一気に縮まることは間違いない。こちらの領域に歩み寄ってもらえたようなうれしさがあるのだろう。

ニャンリオさんは「ルクセンブルグと吸血鬼のハーフ」(「まほうにかけられて」ウェブページより)
▼女子トークができ、男性の立場で恋愛相談に乗ってくれる

私も女装上手な男性とは何でも気軽に話せる。洋服はどこで買うのか、化粧品は何を使っているのかという「女子トーク」もできるし、男性の立場から恋愛相談に答えてもらうこともできる。「僕たちはファッションやメイクをもっとこうしたほうがいいよ、ということも率直にアドバイスします。女の子同士だとマウンティングするので、なかなか本音を出せない。かえって女装男子だからこそかえって話せるということも多いんです」(こゆきさん)。

マルチに対応できる話術に加え、女性客に喜んでもらうためには外見を磨く努力も怠らない。ニャンリオさんは「職人気質で女装しています」という。きれいな女装を見せれば女性たちから「かわいい!」と歓声が上がる。そのためなら脱毛もするし、ブラジャーもする。胸の膨らみがあったほうがスタイルのバランスが取りやすいからだ。メイクも最初から上手だったわけではなく、いろいろな人に教えてもらって練習し、今の姿がある。一朝一夕で今の人気ができあがったわけではないのだ。

一番のポイントは、彼らは女装をし、女性から「女よりきれい」と絶賛されたとしても、女性への敬意を決して忘れないところにある。女性にはかなわないと思うことは多々あるのだそうだ。それは体の丸みや妊娠という身体的なことだけではない。人に尽くす慈愛の精神に感動するという。自分にはあれほど辛抱強く長期間人の世話をすることができないと思い知らされるのだという。自分がリスペクトされているということは、女性にも伝わる。だからこそ安心して遊べるし、心も開けるのだ。

▼ライオンも孔雀もオスのほが豪華で立派

女装がなぜモテるか理解できないという人は多い。そういう人にはこゆきさんは「ジュリー(沢田研二さん)も女装や化粧をして、女性からキャーキャー言われてましたよね」と説明する。「動物を見ても、オスのほうが派手なんですよ。孔雀も羽が豪華なのはオスです」と話す。確かにライオンもオスだけがたてがみが立派だ。そのように力説されると男が着飾ることのほうが自然に思えてきてしまうから不思議である。

江戸時代の浮世絵には、振り袖をまとい、街をさっそうと歩く若い男性の姿が何枚も描かれている。役者だけでなく、一般の男性もファッションとして女物を着ることがあったようだ。その格好をすれば女性にモテたからではないだろうか。近い将来、現代の東京でも、女装姿の男性は珍しくなくなるかもしれない。

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