新たなデザインの服に挑戦する勇気

筆者はこれまで20年以上人材育成の仕事に携わって来ましたが、そこで分かったのは、部下の心理は複雑だということ。もちろん、上司が何も聞かないワンマンタイプでは困ります。でも、実は、部下の心の中には上司たるものリスクをとって明確な指示を出す人であってほしいという願望も隠されているのです。それはまるで猿山のようで、ボス猿の下に明確な順位が決まっていて、「オマエの役割はこれ」と言われることに、居心地の良さを感じる心理は誰にでもあるものです。そうであればますます、さまざまなスタイルのリーダーシップが求められることになります。

状況にあわせてリーダーシップのスタイルを変えることは重要です。周りを引きつけるリーダーシップで維新の扉を開いた西郷隆盛は、悲劇的な結末を迎えます。西郷のフォロワーの多くは文明開化と共に「サムライ」としての行き場を失い、彼らに担がれた西郷は、西南戦争という日本史上最大級の内戦を引き起こしてしまうのです。歴史に「もしも」はないのですが、西郷隆盛が維新後にリーダーシップのスタイルを変えたら、新政府軍に追い詰められて自刃するという悲劇は避けられたのではないか。「リーダーシップを試着する」観点からは、そう思えてなりません。

話を最初に戻して、リーダーシップを「発揮せざるを得ない」状況になってしまったことを考えましょう。もちろん最初はサーバント・リーダーシップから「試着」するのがお勧めです。そして、その服になじんできたら、だんだんとリーダーシップのスタイルを拡張することを意識してみてください。それはまるで、これまでは手に取ることもなかった、好みではないデザインの服に袖を通すようなものです。ちょっと勇気がいることかもしれませんが大丈夫。今回の記事を読んで、リーダーシップに対する180度違う考え方があると分かった方ならば、その勇気を持てるはずです。

木田 知廣 (きだ・ともひろ)
シンメトリー・ジャパン代表、米マサチューセッツ大学MBA講師。人事コンサルティングファーム、ワトソンワイアットにて活躍した後、ロンドン・ビジネススクールにてMBA取得。帰国後は「グロービス経営大学院」の立ち上げをゼロからリードし、前身的なプログラムGDBAを2003年4月に成功裡に開校させる。2006年シンメトリー・ジャパン株式会社を立ち上げ、リーダーを育成したい企業向けに研修を提供中。アダットパートナー講師。
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