「特定業務」を英語化すれば人手不足は解消する

夜、9時ちょうどにトロムソ空港に戻り、ギーヴァー氏と一緒に飛行機を降りると、整備士らしい年輩の男性がやってきて、英語でギーヴァー氏に「あんたが操縦したあとは、機体がこんなふうになってるんだけど、こういう操縦のやり方をしてないか?」(話の詳細は分からず)と聞いてきた。ギーヴァー氏が「いや、そんな操縦の仕方はしてないよ」と苦笑しながら答えると、「そうかなあ。いっぺんジャンプシートであんたが操縦している様子を見せてもらいたいんだけどなあ」とぶつぶつ言っていた。ギーヴァー氏に「今の人はどこの国の人?」と聞くと「ルーマニア人」という答えだった。

北極圏にあるトロムソの町

日本でも看護や介護の現場を中心に外国人労働者を必要としているが、日本語が壁になってなかなか受け入れることができないという話をよく聞く。しかし、発想を転換して、どうしても日本語でなければならない場合は別として、英語化できる職場や業務は英語化してしまえばよいのである。介護の現場はどうか分からないが、たとえば外国人患者を受け入れる医療ツーリズムの病院であれば、日本語より英語が重要だし、一般の病院でも最近は外国人患者がずいぶん増え、通訳を雇っている病院も少なくない。

航空業も英語を使う割合が高いので、外国人を雇いやすい業種である。日本でも、航空管制官とパイロットの会話は日本人同士でもすべて英語であり、整備マニュアルなどもほとんど英語である。日本の航空会社でもスカイマークやスターフライヤーなどの新興航空会社では外国人パイロットを雇っている。

ITもまた、英語を使う頻度が高い分野だ。日本でも社内の公用語が英語の外資系企業が「西暦2000年問題」の頃から、多数のインド人IT技術者を雇うようになり、西葛西を中心とする東京都東部から千葉県にかけてインド人コミュニティができた。

日本でも外資系企業のオフィスは英語が公用語で、数多くの日本人がそこで働いている。社内の共通語を一度にかつ全面的に英語化することの是非は別として、個別の職場や特定業務の英語化は、やる気さえあれば、かなりできるはずだ。

下手に難しい表現は必要ない

日本人は恥の文化の影響もあり、失敗を恐れるので英語を話すのが苦手である。しかし、こうした多国籍の現場で話されているのは、基本的に中学英語で、それ以外に分野ごとに専門用語や独特の言い回しが200くらいあるといった感じである。

私が30歳から40代前半までいた国際金融の世界や、世界で活躍する日本の商社マンたちの英語も基本は中学英語で、交渉や説得の時に高校1、2年程度の英語を使う。ちょうどNHKの番組「COOL JAPAN」に出演している外国人たちが話しているレベルの英語だ。

むしろ多国籍の仕事の場で、下手に難しい表現を使うと、今度は相手が分からなくなる。ネイティブと伍して立派な英語を話さなくてはならないのは、外交とか国際機関での仕事とか、欧米企業のアドバイザーになったりするような限られた場合で、それ以外は中学英語で足りる。ただし中学英語をきちんと話せるためには、高校英語くらいはマスターしておかないといけない。

黒木 亮(くろき・りょう)
作家
1957年、北海道生まれ。早稲田大学法学部卒、カイロ・アメリカン大学大学院(中東研究科)修士。銀行、証券会社、総合商社に23年あまり勤務し、国際協調融資、プロジェクト・ファイナンス、貿易金融、航空機ファイナンスなどを手がける。2000年、『トップ・レフト』でデビュー。主な作品に『巨大投資銀行』、『法服の王国』、『国家とハイエナ』など。ロンドン在住。
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